平助の母親

□80.
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「お前ら、一体何の用だ」



原田さんはわたしの肩に手をおいたまま小脇に抱えるようにして沖田くんに少しトゲのある聞き方をすると沖田くんはにっこり笑って


「別に?今日はここに来れば僕の可愛い名前ちゃんがおめかしした姿を見れるって言うから来てみただけですけど?」


とそれが何か?と飄々とした様子。
そんな沖田くんの代わりに後ろにいた一くんが一歩前に出て律儀に腰から綺麗に頭を下げて丁寧に謝罪する。


「突然仕事中に押し入ってしまい大変申し訳ありませんでした」



一くんの礼儀正しい姿勢に張り詰めていた空気が少しだけ緩和されて、最後に原田さんのため息によってやっとみんなの肩に入っていた力が抜ける。



「ったく…。車買う気がねぇやつは気安く入ってくんじゃねぇよ…。」

「そうだぜ!冷やかししに来たってんならさっさと帰れ」



呆れ口調で言う原田さんに被せて永倉さんまでやんやと言い出す。



「やだなぁ、別に冷やかしになんて来ませんよ。僕はただ僕の名前ちゃんに会いに来ただけですからね。」



にこっと首をかしげて言う沖田君は、そのビジュアルだけならなんて可愛らしい今時の男の子なんだろうと思わずにはいられない整った容姿なのに、そのこてんと首をかしげるしぐさからは想像できないくらい他の者を黙らせてしまう黒いフォースを発動させている。



「僕の名前ちゃんって……。」



それ以上言葉にならない永倉さんをニヤリと見下してから、今度は山南部長に視線を向ける。



「初めまして、僕、沖田総司です。あなたが山南部長…ですよね?近藤さんから話は聞いてます。今日は近藤さんの代理で来ました。」



さっきまでのダークフォースはどこへやら。
握手を求め手を差し伸べる。今時の男の子がするとは思えないくらいのスマートで紳士的なビジネスマナーで山南部長に挨拶をする。
そんな沖田くんの態度に拍子抜けした山南部長も一拍遅れて手を差し出し握手をする。



「あ…、あぁあぁ、あなたが沖田くんでしたか。突然のことで驚いてしまいましたよ。近藤さまから話は伺っていますよ。さ、どうです?さっき着替えたところですよ」



そう言って山南部長はわたしのドレスに視線を向ける。



「えぇ、とても良く似合ってます。さっそく近藤さんにも見せてあげなくちゃね。」



そう言うと沖田君は徐に後ろのポケットからケータイを取り出して操作をする。
山南部長以外、その場にいる全員が何が何やらわからない様子でポカンとしてしまう。



「さ、名前ちゃん、こっちのきれいな場所で撮るよ」

「えっ!?」



沖田くんに手を引かれてショールームに置いてある背の高い観葉植物の前まで移動させられガラス越しに入ってくる昼下がりの
柔らかい陽射しの前に立たさせる。



「はいチーズ」
「えっ!?」

「うん、バッチリ」



にっこり笑ってケータイを操作して「送信完了!」と満足そうに呟く沖田くんに

「えっ!?ちょっと…、何をどこに送ったの!?」と慌てて駆け寄って聞いてみれば
「ん?」と微笑んで首をかしげてわたしを見下ろす。


「ん?じゃないよぉ!」


一体なんなの!?とぎゃいぎゃい騒いでいると事務所の方からみんなが寄ってきてどうしたどうしたと覗き込む。



「言ったでしょ?今日は近藤さんの代理で来ましたって。だから僕は僕のお役目を果たしただけ。」

「果たしただけ。って!だって今いきなり写真とってたよね!?わたし聞いてないよ?」

「?ダメ???」



何がいけなかったのか全然わからないとでも言いたげな表情で首をかしげる沖田くんに、なんかもぅなにいっても暖簾に腕押しな感じがしてきて一気に脱力感が襲う。



「はぁ…、ダメって…。今更聞かれても…。」



がっくし項垂れることしかできないわたしの前で、沖田くんの背後から集まったスタッフのみんなが沖田くんのケータイを覗きこんで「どんなの撮ったんだ!?」「見せろ見せろ」と盛り上がる。



「ちょっと…、なにこの状態…。僕、男の人に群がられても全然嬉しくないんだけど」



とか言いながらさっきとったであろう写真を表示させている。

おぉお!と沖田くんのケータイを覗き込む集団に、一体どんな写真が晒されているのか気になるけどなんだか怖くて見に行けない…。
ドレスの裾を握りしめてプルプルしていると盛り上がる男性陣のざわめきに紛れてカシャ…と小さく聞こえるシャッター音。


音のした方に顔を向ければそこにはケータイを構える一くん。

「あ…」と表情を一瞬強張らせたあと小さく咳払いをして何事もなかったかのようにケータイをおしりのポケットにしまい込む。



「は……、一くん…?」

「い、いや、これはその…、あまりにも名前さんが綺麗で……。ではなくこれは……俺は………」

「なになに〜?一くん、盗撮はダメでしょ」



群がるスタッフからケータイを奪い返して一くんの近くに駆け寄って肩に手を回して一くんを捕まえるとにやにやと背中を屈めて一くんの顔を覗き込むように見る。意地悪だなぁ。



「とっ!?盗撮などではない!
俺はただ、この場に居られなかった土方先生の為にだな…!」

「土方さんになんて送らなくていいよぉ。どうせ僕が近藤さんに送ったやつ見るだろうしさ〜。だからそれ消しなよ?ほんと一くんは節操ないんだからさ」

「なっ!?」



断りもなく写真を撮ったのは沖田くんも同じなのに…。
なんだか一くんがいたたまれなくなってしまう。



「それはそうと山南部長。」



わたしがそんなことを思っていると顔を真っ赤にして何かを言おうとした一くんからぱっと身を翻して山南部長へと向かう沖田くん。



「はい何です?」

「授賞式の正式発表の詳細はもう決まってるんですか?近藤さんから決まってたら聞いてきてほしいって言われてるんです。」

「あぁ、そうでしたか。確か本社のデスクにFAXが届いていたので…」



そういいながら事務所の方へ歩いて行く二人。

固まる一くんにそっと近付いて俯く顔を覗きこめば、



「俺は…盗撮など………」

と小声で呟いている様子……。

「……、一くん?」

声をかけると



「お…、俺は…!断じて厭らしい気持ちでシャッターをきった訳ではありません!あまりにも…!あまりにも名前さんが綺麗だったからついっ…!」

「わ…、わ…、わかったから!大丈夫だから、ね?」



真っ赤な顔で突然大きな声で言い訳をする一くんを、背中をぽんぽんぽんぽん宥めるわたし……。


もぉ……。
早く着替えたい!!




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