平助の母親

□79.
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うぅ……、
これでいいのかな……………。



スタッフ全員分のロッカーと食事をするための机があるだけのロッカールームで、一人スーツを脱いでドレスを纏う。

本来荷物をしまっておくだけのこの部屋で、まさか服を脱いで着替えをするなんて……。

しかもここには身だしなみを確認する全身を写せるような姿見なんてのはなくって、着替えたはいいけど一体今自分がどんな姿をしているのか全然わからない…。

とりあえず自分のロッカーを開けて扉に付いている小さな鏡を覗いてみる。
だけどやっぱりそこに写るのは顔から首までの範囲だけで、何の役にもたってくれない…。

はぁっとため息をついてバタンとロッカーを閉めると、その音を合図にロッカールームの外から声をかけられる。



「終わったか?」



原田さんのその声に慌てて「はっ!はいぃっ!」と声を上擦らせて返事をしてしまう。
すると待ってましたとばかりにバッと扉を開けて入ってくる原田さん。



「おぉお!いぃじゃねぇか!」



ぱぁっと顔を輝かせて感心するように言ってくれる原田さんの後ろから山南部長もロッカールームに入ってきて、わたしに小さな箱を差し出す。



「うんうん、すばらしい。いいじゃないですか」



そう言って差し出した箱をわたしに持たせて満足そうに頷く。



「あ、あの、これは…?」



何の説明もなく手渡された箱を少しだけ掲げて訊ねれば、


「あぁ、そうでした!そちらは近藤さまからあなたへプレゼントだそうですよ」


開けてみてください。とコテンと首をかしげてにっこりと微笑まれる。


山南部長……、すごくご機嫌だ……。


ゴクリと何故か喉をならして箱を開けてみれば、そこには今自分が着ているドレスに合わせて作ったようなきれいな白いハイヒール。



「そちらも合わせてオーダーメイドしたそうですよ」

「えっ!」



驚きのあまり、自分でもビックリするくらい大きな声を出してしまう。



「社長も近藤さまも、よほどあなたの授賞式を楽しみにしているのですね。二人ともオーダーメイドの完成をまだかまだかと事あるごとに連絡を入れてこられてね…。この一ヶ月のあいだ、わたしの業務はほとんど二人の対応で終わったようなものでしたよ」



フフっと眉を下げて笑う山南部長は困りながらもどこか嬉しそう。



「お二人があなたのためを思って作ってくださったのですから、遠慮は要りませんよ。喜んで受け取ってくださらないと、お二人は浮かばれません」

「浮かばれませんって山南部長…。二人ともまだピンピン生きてるってのに…」



目を伏せて言う山南部長にすかさず突っ込みを入れる原田さんに思わず笑ってしまう。



「ふふっ!……、そうですよね…。それじゃぁ、ありがたく履かせていただきますね!」



とびっきりの笑顔で言えば、うんうんと嬉しそうに頷く山南部長とふっと微笑む原田さんを前に、近藤さまから頂いたハイヒールを箱から取り出して、そっと足をその中に滑らせた。


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