平助の母親
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☆★平助と千鶴の交際宣言★☆
「でさぁ、結局地区予選にはなんとか二年のメンバーで編成して形にはなったんだけどさぁ…」
さっきからグチグチ文句を言いながらもご飯を食べるペースは全くいつもと変わらない。こういうところ、平助の良いとこだと思う。
「総司のやつ、『試合まで残り三日しかないんだよ?これくらいでへばってたら話にもならないんじゃない?やる気あるの?』とか言ってムチャクチャなメニュー組んでくるし、『平助くん、部長なんだから君がしっかりしないとみんなついてこないよ?』なんて全部オレが悪いみたいな言い方してくるしさ〜!あーーー!マジで胸くそわりぃ!」
お茶碗を持ち上げてがががっとご飯をかき込む。
「おかわりっ!」
突き出された茶碗を受け取って席をたつ。
くすくす笑って台所で炊飯器から大盛りのご飯をよそっているとむすっとした声で「何笑ってんだよ…」と聞こえてきた。
チラッと視線をあげて平助を見れば不機嫌な声は私に向けられたものじゃなくて千鶴ちゃんに向かっていた。
「ふふ。だって平助くんの物真似があんまりにもそっくりで…、ふふっ、ふふふ!」
可笑しそうに笑うちずるちゃんの可愛らしさに、むくれていた平助の表情がかぁーっと赤くなっていったかと思うとすぐにご機嫌の笑顔になっていく。
あらあら?何?どうかしたの?この二人!
二人で微笑みあってなんだかスゴくいい雰囲気!お邪魔しちゃ悪いかしら!?
そんな仲睦まじい二人を見て私までハッピーな気持ちになっていると
「かぁちゃん飯まだかよ」
なんて言われてしまう。
あぅ…。なんだいなんだい!こっちは気を利かせてやってんでぃ!
「はいはい、へいおまち!」
平助の前にご飯を置いてわたしも二人の向かい側に座る。
「へいおまちってさ…、何キャラだよ…」
「ふふふ!」
しれっとした顔でお茶碗片手にわたしに呆れた顔をする平助と尚も笑い続ける千鶴ちゃん。
「いんえ別に?何キャラでもなぃッスよ」
「……………。」
「ふっ…!ふふふ!」
引き続きしれっとする平助だったけど、いつもよりツボにはまったように、それでいて可愛らしさを保ちつつ笑う千鶴ちゃんを横に、平助の頬まで緩み出す。
「千鶴も笑いすぎじゃね?」
「ふふ…、だって平助くんも名前さんもほんと、面白いんだもん…、ふふふ!」
わたしの目の前で隣同士で笑いあう二人を見て「平和だな〜」なんて思う。
あ!そうか。これがとしくんが言ってた世界平和なんだ!
千鶴ちゃんが笑えば平助も笑って、二人の笑顔を見れたらわたしも嬉しい。
ここから笑顔がどんどん広がっていくんだな〜。なるほどなるほど!
知らず知らずわたしの顔も緩んでいて、そんな顔で二人を見ていると、わたしの視線に気が付いた平助が怪訝な顔をわたしに向ける。
「今度はなに、かぁちゃん…。ニヤニヤしちゃって…」
「ん〜?うん、世界平和だなーって思って」
「はぁ?」
「ううん?なんでもない!」
目の前のおかずをぱくっと口にいれてつやつやのご飯を頬張る。
「???」
そんな私を見てキョトンとする二人。
「ふふ!二人は鏡みたいだね!」
「は?」
わたしの一言に更に首をかしげる千鶴ちゃんと前のめりになってすっとんきょうな声を出す平助。
「だって千鶴ちゃんが笑えば平助も笑うし、…千鶴ちゃん、これからも平助の隣で笑っていてね!」
にっこり笑って言えば、二人揃ってキョトンとしたあと、かぁぁっと顔が赤くなっていく二人。
「?」
あれ?何かおかしなこと言ったかな?
「どうかした?」
首をかしげて二人の顔を覗きこめば、
「べべべべべっつに?」
「あ……、あの…、その…!」
「ち!千鶴っ!?」
めちゃめちゃ焦ってとぼける平助に対して、何か言おうとする千鶴ちゃんに、これまた慌てて千鶴ちゃんを横から凝視する平助。
「え!?何二人とも!ほんとにどうした!?」
なんだかわたしまで焦ってしまって、思わず椅子から腰を浮かす。
「わぁぁぁああ!ほんっと!マジでなんもねぇから!ごちそーさまー!」
逃げるように食器を流しに放りこんで部屋に駆け込んでいく平助。
な、なんだなんだ???
残された千鶴ちゃんに視線を向ければ真っ赤な顔して私を見つめていて、「千鶴ちゃん?」と声をかけると大きな瞳を潤ませて緊張した面持ちで口を開く。
「あ!あの…、あの…!」
「う、うん…!」
千鶴ちゃんのあまりの緊張ぶりにわたしまで固くなってしまう。
「あのね、名前さん!…私!…私!平助くんと…」
「わぁぁぁああ!」
ものすごい勢いで階段をかけ降りてきて大きな声を発しながら登場する平助。
驚いて見れば真っ赤な顔した平助が「い!言うのか千鶴!?」と真っ直ぐに千鶴ちゃんに問いかける。
千鶴ちゃんは真っ赤な顔ながらも落ち着いた様子で平助の問いかけに頷き、そしてわたしに真っ直ぐ向き直る。
「名前さん…、私!平助くんの事…、その…、大好きなんです!」
そう言った千鶴ちゃんは両手を膝に乗せて肩をきゅっとすくめて俯く。
耳まで真っ赤になってるのが見えて、わたしまでかぁっと熱くなる。
「お、オレたちその…、」
俯いて黙ってしまった千鶴ちゃんに代わって平助が話し出す。
「オレたち、…付き合う…っていうかその…えっと…」
だけど平助も真っ赤な顔で頭をかきながら俯いて言葉が上手く続かない。
「え…、あ…、あの…、つまり二人は…、その…恋人同士…?」
何故かわたしまで真っ赤になって二人を交互に指さしてしまう。
そんなわたしの言葉にチラッと顔をあげた千鶴ちゃんがわたしの目を見てコクッと頷く。
その顔があまりにも可愛くてきゅぅーーーーんと胸が締め付けられる。
思わず立ち上がってテーブルをぐるっと回り込んで千鶴ちゃんの肩を後ろから抱き締める。
「すごい!すごい嬉しい!ありがと千鶴ちゃん!!」
千鶴ちゃんのこめかみ辺りにグリグリ頬擦りしてしまう。
だって嬉しすぎてしょうがないんだもん!
「名前さん…!」
「かっ…、かぁちゃん!?」
「もぉ!わたし絶対平助の片想いで終わると思ってたんだよ!あーーーうれしーーー!!良かったねーーへーすけぇーーー!!」
千鶴ちゃんを抱えたまま平助に顔を向ければ「かぁちゃん…ひでぇ…」と複雑そうな顔をする。
「平助ね、ずぅーーっと千鶴ちゃんの事が大好きだったんだよ?でも千鶴ちゃんはどんどん可愛くなってくし?そんな千鶴ちゃんが平助を向いてくれるのかわたし心配だったんだけどぉーーー!あーーー!もぉ!嬉しすぎて涙が出てきたよぉーー!ヤバーーイ!!」
目尻に滲む涙を擦ると「名前さん…」と千鶴ちゃんが呟く。
「名前さん…、私…、これからもずっと平助君のそばにいたいんです…。だから…、これからも…」
わたしを見上げて顔を赤らめる千鶴ちゃんに抱きついて
「もちろんだよ!これからも平助をよろしくね!」
と改めてグリグリする。
「ふふふ!」
千鶴ちゃんも嬉しそうに笑ってわたしと同じように頭を動かしてグリグリしてくれる。
あーーー!サイコーに嬉しい!
千鶴ちゃんが平助のお嫁さんに来てくれたら…、って夢も夢じゃなくなるんだーーー!
千鶴ちゃんに抱きついたまま平助に視線を向けると真っ赤な顔で突っ立っていて、わたしがビッと親指を立ててグッジョブ!とウィンクして見せれば、一瞬目を見開いてから平助もにかっと笑ってビッと親指を立てる。
めちゃめちゃハッピー!
チョー世界平和だよ!
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