平助の母親

□75.
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翌日の放課後、部室に集まったバスケ部員は部長の指示のもと着替えもせず、突然入ってきた顧問の武田、校長、教頭の俺を驚きの顔で見てこれから何が始まるのかざわめき始める。
ここで普通だったら注意の一つ二つ偉そうにいう武田も今日ばかりはおとなしい。
そんな様子にますますざわつく一二年部員たちに部長が静かにするようにと合図をする。

全員が黙ったところで近藤さんが一歩前に出て全員の顔を見る。



「あー、その、だな…。日々一生懸命練習を重ねている君たちに、今日は残念な話をしなければならない…」



近藤さんの言葉に再びざわめきだす生徒たち。だが、すぐに静まり近藤さんの次の言葉に集中する。



「先ず、これまでこのバスケ部の顧問であった武田先生を監督不行き届きで顧問
解任することが決定した。」



近藤さんが武田に視線を向けて言うと生徒たちから一斉に向けられる視線に耐えかねて俯く。



「これまで武田先生は部活動の顧問として生徒たちの活動に目を向けていなければならなかったのにそれを怠ってしまった。それが原因で君たちの中の一部の生徒は気が緩み……、あってはならない事態が昨日、発覚してしまった…」



ほぼ全員が昨日何が起こり練習を切り上げて帰らされたのか、今日一日学校で過ごす時間の中で気が付いていたようで、これから下される結論を真っ直ぐ近藤さんの顔を見つめて待っている。



「本来ならば、バスケ部全員の連帯責任として重く受け止めなければならないことなのだが……、君たちが熱意をもって練習に取り組んでいることは俺たち全員理解している。一時廃部と言う話も出たんだが、そこまでして君たちの希望を奪うことは誰も望んではいない。昨日部長が言ったように、今回の件に全くの無関係の君たちからバスケ部を取り上げるなんてことはできない。
しかし…、できることならこれまで通り活動をさせてやりたいのだが……」




そこまで言うとさすがの近藤さんも言いにくいのか俯き左手で傾げた頭を押さえてしまう。



「………。」




そんな近藤さんの様子を黙ってみつめる生徒たち。
次に聞かされる内容もほぼわかっているのだろう…。



「……、俺たち、これまで通りバスケできないんですか?」



ぽつりと誰かが呟く。それを発端にざわめきが広がる。



「いや!そうでは…」

「バスケ部は今日から二学期が始まるまでの間、活動停止が決定した。」



焦り始めた近藤さんに代わって言った俺の言葉に静まり返る部室。

今日から二学期までと言うことは、つまり今週末に迫った地区予選は棄権、三年にとっての引退試合もなく、二学期からの活動はいきなり一二年だけの活動となる。
形式上三年にとっての退部は免れた形にはなるが、実際活動することができない以上退部と同じようなもんだ。

項垂れる三年部員の中でスタメン部員たちは唇を噛み締め悔しさを堪えている。
そんな生徒たちには酷な事だが、会議で決定した以上これ以上俺たちからいう言葉はない。
決定事項のみを伝えた俺に部長が立ち上がる。



「待ってください!」

「?」



部長に視線を向けると、怯むことなく真っ直ぐな瞳で俺を見据えて話し出す。



「土方先生!お願いです!俺たち三年が活動停止になるのは構いません!だけど…、無関係のこいつらまで活動停止になんて…、お願いですからこいつらだけでも活動を続けられるように…、地区予選に出られるようにしてください!お願いします!」



部長が頭を下げると他の三年部員たちも昨日と同じように頭を下げる。

近藤さんとオレと、顔を見合わせてため息をつく。



「…そうしてやりてぇのは俺だって同じだ。だが、顧問不在の今、どうしようもねぇんだよ…。」



実際部活動の多いこの学校で、文化部では顧問を兼任するほど教師の手が足りていない現状で、武田のように経験もない教師が部活の顧問に充てられることも珍しくはない。
まぁ、だからと言って今回のように活動に全く関心を示さないという教師は他にいないとは思うが…。
そうでなければならないのだがな、普通は。

黙りこむ俺に直向きに真っ直ぐな視線を向ける生徒に何故か近藤さんが落ち着かない様子で「トシ…、」と俺の肩に手をかける。



「トシ…、もう一度会議を開こう。顧問の件は俺に考えがある。だから結論を出すのはそれからでも遅くはないだろう?」



近藤さんの言葉に三年部員たちから羨望の眼差しが送られる。

近藤さんがどんな考えがあるのかは不明だが俺だって無闇に生徒たちの必死の思いを踏みにじるほど鬼じゃない。
近藤さんの顔とバスケ部全員の顔を見合わせ頷く。



「それじゃあもう一度会議だ。」

「!!」


俺の言葉に一気に活気が漲る生徒たちに近藤さんもご満悦で


「よぉし!みんな!俺に任せておけよ!」


と大きく胸を張って拳でドンと胸を叩く。



「まぁ、余り期待しないで待っとけよ」

そういうとやっと空気の柔らかくなった部室に生徒たちの笑みが溢れた。
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