平助の母親
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「なんかあれだねー、こうして平助と並んで歩くのもなかなかないよね!」
ゆっくりわたしの自転車を押して歩く平助と二人、並んで通学路をてくてく歩いてく。
さっき応接室で聞いてしまった話なんて思い返せないくらいの浮かれた気持ちで。
「かぁちゃん、ちょっとテンション上げすぎじゃね?病み上がりなんだからもっとおとなしくしてくれよ…」
「えー!?だって制服姿の平助と歩くなんて今後あるかないかわかんないじゃない!テンション上がるよー!」
たたたっと小走りで前に出て後ろ歩きしながら我が子の立派な制服姿をにやにやと見つめる。
「もぉ…、かぁちゃんがしっかりしてくれないと、なんかあった時土方先生に怒られるのオレなんだからさ〜…」
はぁっとため息を吐き出して項垂れながらもチャリチャリと自転車の音は止まらない。
「ふふ。平助と土方先生とで何があったか知らないけどさ〜!なんか仲良くなってたよね?」
そのまま進んできた平助の横に立ってまた歩き出し、隣で歩く平助の顔を覗きこめば焦って大否定する。
「はぁっ!?どこが!?全っ然、仲良くねーし!何言っちゃってんの!」
「えー?仲良さそうだと思ったんだけどな〜」
にやにやと笑いながら前を向いて歩いていると、ふと自転車の音が止まっていて、振り返ると隣にいたはずの平助が足元を見つめて自転車を支えたまま立ち止まっていた。
「………?平助?」
急にどうしたんだろうと声をかけると、言いたいことを頭の中で整頓するように少し間をあけてからぽつりと呟く。
「かぁちゃんはさ、ほんとにその…、結婚とか、考えてるわけ?」
俯いた視線をチラッとわたしに向けて聞きづらそうに呟く平助に、浮かれていたテンションも下がりわたしも立ち止まる。
「え…?」
「…………。」
離れた二人の間に沈黙が流れる。
だけど平助はわたしが答えるのをじっと待っていて、わたしが何か話さない限りこの静かな距離は埋らない。
「……、結婚なんて……、どうしてそんなこと聞くの…?」
質問に対して質問で答えるわたしはずるい。
だけど平助はそんなこと気にもしないでわたしが返した質問に答えてくれる。
「どうしてって…。こないだ土方先生、できるならしたいって言ってただろ…?
それってその…、
かぁちゃんと土方先生、そういう関係なんだろ?」
開いていた二人の距離を自転車を押してゆっくり縮めながら、少し頬を赤らめて言う平助。
「そういう関係って…」
言われたわたしは平助がどんな意味を込めて言ったのかわからなくて言葉に詰まってしまう。
そんな私の横を自転車をチャリチャリいわせて通りすぎていく。
先を歩く平助はわたしに背中を向けたままで
「……オレさぁ、正直土方先生ってただ怖ぇだけの鬼教師だと思ってたんだよね。」
前を向いたまま話す声の様子から平助がどんな表情で喋っているのか、次に何を喋りだすのか想像つかない。
ゆっくりと歩き続ける平助の背中を見つめてわたしも後を着いていく。
「なのにさぁ、かぁちゃんの事になるといきなり見たこともねぇくらいテンパったり全然別人みたいな顔したり…。ホント、マジ笑っちゃうんだよね。」
「……………。」
「でもさぁ、それってマジでかぁちゃんの事、本気で守りたいって思ってるからなんだってわかったんだ…」
「土方先生さ、かぁちゃんだったら寝て起きたら治るから平気だってオレ、かなりしつこく言ったのに全然帰ってくんなくてさ。そしたらいきなり、『頼むから傍にいさせてくれ!』って頭下げちゃってさー。あの鬼の土方先生がだぜ?マジであり得ねぇよ。」
「…………。」
「本気で好きな人の為なら、人って変われるんだなっていうか…、う〜ん…、なんつーか…、なんつーの?なんか上手く言えないんだけどさ…、」
「オレ、かぁちゃんの為に必死になって、どんだけカッコ悪いとこオレに見せたりしても、かぁちゃんの傍にいたいって言った土方先生のこと…、キライじゃねぇよ?」
そう言って少しだけ振り向いて見せた平助の横顔はニカっと笑って白い歯が覗いていた。