平助の母親
□74.
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☆★平助との帰り道★☆
としくんの後について道場に着けば、入り口の前に平助の姿が見えた。
平助もちょうど今来たところだったみたいで、近付く私たちの存在に気が付くと「はぁあ!?」と大袈裟に驚いた。
「かぁちゃん!なにしてんの!?」
あまりの声の大きさに道場の中で練習している生徒さんたちが一斉に平助に視線を向ける。
でもとしくんの存在に気が付いて、慌てて練習の続きを再開する。
「ふふ。久しぶりに平助の制服姿見ちゃった!先週ぶりか!今日は寝過ごして見送れなかったもんねー。お昼、ちゃんと食べた?なに食べたの?」
真っ白のシャツの首もとから黄色いTシャツを覗かせて大きなショルダーバッグを肩から提げている平助がかわいくてついつい色々話してしまう。
「またもぉ〜、かぁちゃんはー。なんでこんなとこにいるのって聞いてんでしょーが!全くかぁちゃんなんだから〜」
話の噛み合わない私たちのやり取りをみてふっと笑ってとしくんがわたしに代わって話し出す。
「お前が書き置きしてこねぇからカバンがねぇって俺のとこに来たんだよ。」
フンッっとどや顔で平助に何故か自慢するように言うとしくん。
そんなとしくんになんだか悔しそうに「ぐぬぬ…」としっぽを巻いてちくしょぉって言ってる子犬のような顔をする平助。
???
この二人の中で一体どんな会話がなされているのだ?
見下ろし見上げる二人の視線の中に入っていけずにポツンとしていると道場の中から千鶴ちゃんが駆け寄ってきた。
「名前さん!?もう大丈夫なんですか?」
「千鶴ちゃん!おはよお!」
手を上げて挨拶すれば、「お、おはようございます…」と一応挨拶を返してくれる。
「おぅ千鶴。今日はバスケ部はもう帰るんだが…、お前も一緒に帰るか?」
としくんが千鶴ちゃんに言うと、え?と一瞬目を丸くして、それから平助に視線を向ける。
平助は肩をすくめて首を少し傾げて見せるだけ。
「あの、バスケ部、…何かあったんですか?」
地区予選がまた週末に迫っているのに練習を切り上げて帰るなんて何かあったに違いないと、千鶴ちゃんはすぐに気がついたんだ。
そんな鋭い千鶴ちゃんの問いかけにとしくんは表情を変えることなく冷静な声で返事をする。
「いいや?今日は病み上がりのこいつまでいることだしな。一人で帰すわけにいかねぇだろ?平助も帰ることだし三人で帰ったらどうだ?」
バスケ部の事には一切触れずに答えるとしくんに、千鶴ちゃんもそれ以上聞かない方がいいと判断したのか
「……、あの、でもまだみなさん練習しているので…」
と道場の中に視線を向けて答えを濁す。
「まぁいい。帰りは俺が送ってやる。そういうわけだ平助。千鶴は俺が送ってやるからお前は俺の代わりにしっかり名前が無茶しないように着いてやってくれ」
千鶴ちゃんから平助に視線を移すとニヤリと笑って言う。
「なっ!?俺の代わりって!」
「頼んだぞ」
「ちょ…、無茶しないようにって…!」
平助とわたしと、二人でとしくんの発言に目を見開く。
そんな私たちを見下ろしてフフンと鼻で笑うトシくんと、クスクス笑って見てる千鶴ちゃん。
「ふふふ!なんか、やっぱりいいですね!」
そんなふうに呟く千鶴ちゃんに私たち三人キョトンと顔を見合わせてそれからそれぞれ千鶴ちゃんと同じように笑った。