平助の母親

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「この辺です」



生徒が指差した地面から部室の壁に沿って視線を上げていけば小さな小窓が二つ。
ちょうどバスケ部とハンドボール部の部室の小窓の中央に落ちていたと言う。

部室棟の裏は、植木や垣根を挟んで持久走用の外周トラックがあるが、わざわざこんな垣根と部室棟の間に入り込むなんてのはまさしく掃除を命ぜられた掃除当番くらいのもんで他にこんな狭いスペースに好き好んで入ってくるなんてヤツは考えられない。




「……………。」




考えられるのはやはりこの小窓から捨てられた……。
それしか考えられない。




「わかった、ありがとな。あとは俺が調べるからお前は帰っていいぞ」

「は、はい。さようなら」




細い部室裏のスペースから二人抜け出して、掃除当番の生徒を帰してやる。

生徒の背中から視線をバスケ部とハンドボール部の部室の入り口へと向けてそちらへと足を進める。

グラウンドを見れば野球部サッカー部ハンドボール部テニス部陸上部の生徒がそれぞれ活動を始める前の準備運動やグラウンドのトラックを軽く流し始めている。

ハンドボール部の部室は空か…。


部屋の入り口前に立ってみても中から人のいる気配は感じられない。

体育館側に位置する部室棟の一番端になるバスケ部の扉の前に立ってみれば、他の部室とは違いまだ中に人のいる気配がある。



「おい、開けるぞ」



そう言ってガチャリと開ければ五六人ほどの生徒が部室の奥の壁際に配置された椅子に屯って一斉にこちらを振り返って驚いた顔を見せる。




「ひっ!?土方先生!」
「ど、どうかしたんですか…?」



明らかな動揺を見せる生徒たちに、怪しいと思いつつもなんでもない素振りで話しかける。



「いや、ちょっと平助を探していたんだが…」

「へ、平助ならもう体育館で練習始めてるんじゃないっすか?」
「あぁあぁそうそう!あいついっつも張り切ってるからなー」
「あいつ犬みてーにボール追っかけるの好きだしなー」



そう言って一斉に笑い始める生徒たち。
その笑い方に嫌悪感を抱くが敢えて俺も口端をあげて見せる。



「わかった、体育館にいるんだな。ありがとな」



踵を返して部室を後にしようと生徒たちに背を向けて言えば、全員肩から力を抜くようにため息をつくのが見えた。



「ところで」



そんな素振りにも気が付かないフリで勢いよく振り返ればまたも全員が同じリアクションで背筋を伸ばす。



「はっ!はいぃっ!!」

「お前たちはここで一体何やってんだ?」



ゆっくりと、
だが、脅しにはならないくらいの声色で聞けば、チラチラと目配せをしながら、一人が代表して返答する。



「あ…、俺たちは最後のインハイになるんで…、作戦会議ッス」



そういうとそれ以上は答えることがないのかヘタクソな愛想笑いを浮かべるだけ。



「……そうか。だがそういう会議なら実際出場する選手の練習を見ながらやった方がいいぞ。」

「は、はい。そうするッス」



生徒たちの返事を聞いて扉を閉めた。
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