平助の母親
□71.
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☆★不祥事★☆
放課後、やっと教師にとってのまとまった休憩時間となり、自分の席に落ち着いて腰をおろすことができる。
だが、俺のようにクラス担任をしていたり部活顧問をしているとなるとまた話は別なわけで…。
朝昼同様、名前の家に電話をかけてコール音を聞く。
今回はさっきかけた時とは違い、それほど時間に追われる訳でもなく出るまで待ってやるつもりで受話器を耳に当てていたが、やはり一分近くたってもコール音は途切れることがない。
まさか本気でくたばってんじゃねぇだろうな…。
そう思った矢先、コール音が途切れハッとした瞬間聞こえてきたのはいつの間にか背後まで来ていた生徒が俺を呼び掛ける声と、受話器からは感情の伴わない無機質な留守電ガイダンス。
チッと舌打ちをして受話器を置き生徒に振り返る。
「どうした?」
特別意識したわけでもねぇのに話しかけてきた生徒は俺の表情を見て一瞬肩をびくつかせてまずは謝罪してくる。
「あっ!すっ!!スイマセン!あ、あの…、さっき校庭の掃除をしていたらこれが落ちてて…」
そう言って差し出されたのはタバコの吸い殻。
差し出してきた生徒は俺の受け持つクラスの生徒で、放課後校庭の掃除当番。
差し出された吸い殻は火をつけてすぐに揉み消したくらいの長さのものが一本だけ。
「どこに落ちてた?」
それを掌に受け取って生徒を見上げれば、そいつは何も悪いことをしたわけでもねぇのに、すっかり怯えきった顔で肩をすくませ、
「ぶ、部室棟の裏です!」
別に大声で怒鳴ったわけでもねぇのに、ひぃぃっと悲鳴が聞こえてきそうなくらい背筋を伸ばして首をすくめる生徒に、椅子から立ち上がって肩に手を置いてポンポンと軽く叩いてやる。
「別に怒ってねぇし特別機嫌も悪くねぇんだからそんなに怯えることねぇだろ…。俺が脅してるみてぇじゃねぇか」
「は…、はい…。」
「で?部室棟つっても…、何部の部屋の前かわかるか?」
そう尋ねると、多少落ち着いた生徒は右斜め上に視線を向けて拾ったときの情景を思い出すように答える。
「確か…、バスケ部とハンドボール部の間…、どちらかの小窓の下に落ちてました」
「バスケ部…」
ハンドはともかくとして、もしこの不祥事がバスケ部のものだったとしたら、インターハイを控えて努力しているヤツもいるのに、これまでの努力が水の泡だ…。
どちらにしてもこんなものが校内に落ちているなんてのは大問題だ。
この問題が生徒とは無関係であることを確かめるために生徒と共に職員室を後にして現場へと急いだ。