平助の母親
□69.
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「おはよーっ…、あ…あれ?」
いつものように平助くんを迎えに玄関を開けようとしたけど開かない…、
あ、そっか。
昨日名前さん、いつもの一人インフルエンザでまだ寝てるんだ…。
う〜ん…
こういうときは…、
小さいときによくやってた…
リビングの窓から
「平助くん!おはよー!」
網戸になってる窓からわたしの声がしっかり届いたようで、ビックリしてこっちを振り向く平助くん。
片手には携帯電話を耳に当てている。
わたしの顔を見るとハッと壁にかけてある時計を見上げて慌てて廊下へ駆けていった。
わたしも玄関の前に戻ると、中からカチャッと鍵の開く音がして勢いよく扉が開いた。
「わっりぃわりぃ!かぁちゃんまだ起きてなくてサー」
平助くんが扉を開けてくれて私も家の中に入る。
平助くんの右手には携帯電話が握られたままで、まだディスプレイが光っている。
「電話…、いいの?」
「あ?あぁ、もう終わったから」
そう言って二つ折りの携帯電話をぱちんと折って廊下を進む平助くん。
「名前さん、どう?」
リビングに来てみればテーブルの上にはいつもの朝食とはちがってトーストのパンくずが散らばったお皿と牛乳を飲んだ後のグラスだけ。
「あぁ、かぁちゃんまだ起きてなくてさ、どうなんだろ?熱下がったんかな?」
ちらっと名前さんの眠る部屋の方を見る平助くんに、
「ちょっと見てきてもいいかな?」
と断ってソファーの後ろから和室に上がって名前さんの部屋の襖をそっと開けてみた。
そこには私が敷いた布団に、こちらに背中を向けて横向きになって寝ている名前さんがいた。