平助の母親

□69.
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カーテンのすき間からうっすらと柔らかい光が射し込む朝方五時前。

あれから名前の頭を撫でていたら俺までしっかり寝ちまったようだ。

普段からさほど寝なくても平気な俺が、寝ないで看病してやろうと思っていたのに、

名前の寝顔を見て、名前の柔らかい髪を触って、名前の匂いに包まれていたら、気が付いたら朝だった。


ぐっすり寝ちまったが、あれから名前が起きた様子もなく、名前もよく眠れているようだ。


抱きしめるように抱え込んでいた名前の体はまだ少し熱く、一晩で治まると言っていた名前や平助の言葉に軽く舌打ちする。

だが、平助の言ったように、遅くとも後半日もすれば元気な笑顔で平助の帰りを迎えてくれるというなら。その言葉を信じよう。

昨晩の会話の受け答えの様子や少しでも下がった体温…。
この調子ならもう大丈夫だろう。


そっと布団から抜け出して名前の顔を見れば、ぐっすりと眠ったまま。
俺が抜け出したことにも気付かず、俺が隣で寝ていた方を向いたまま、安らかな寝息を安定したリズムで吐き出している。


その寝顔を見ていると時間を忘れてしまいそうになるが、気持ちにキリをつけるように一つため息をつき、柔らかな寝息をたてるその唇に自分の唇を寄せる。


……………。


くっ……。
キツいなこの姿勢……。

名前にはベッドで寝てもらいてぇもんだぜ。
後でメールでベッドで寝るよう勧めてやろう。


無理な姿勢から起き上がり、名前の寝室をそっと後にしてリビングに脱いだままのシャツとローテーブルに置いたままの名前の家の鍵を手に取り玄関に向かう。


平助に言われた通り鍵を閉め扉の横にある新聞受けの投入口から鍵を入れると金属の落下した音が早朝の静寂に響いた。


6月も中旬を過ぎて蒸し暑い時期だが、昨日に続き今日も晴天で、早朝のうっすらと照り始めた柔らかな陽射しとまだ眠りから覚めない住宅地の静寂の空気がどこか心地好さを感じさせる。

ガレージに止めた車に乗り込もうとドアに手をかけて、はたとあることに気がついた…。



「……やべぇ。名前の鞄…」




昨日慌てていたせいで、すっかりその存在を忘れていたが、車の後部座席中央に無造作に放置された名前の鞄とその側に転がる名前ケータイ…。

後部座席のドアを開けてそれらを手に取り玄関を振り返るが、玄関は既に鍵をかけた後で開くはずもなく、それにまだ起こすには少し気が引ける早すぎるこの時間…。


しばし手に持った荷物に視線を向け考える。



「まぁ…、いいだろう」



一言、誰に言うでもなく呟いて後部座席のドアを閉めて運転席に乗り込む。

助手席のシートに荷物を置いてエンジンをかけて名前の家を後にする。

今日一日ゆっくり布団の中で過ごすであろう名前に仕事用の鞄なんて必要ねぇだろう。

後で頃合いを図って平助にでも電話してやろう。


まだ眠る二人の存在を思いながら、少しずつ動き出す町の流れに俺の車も紛れ込んだ。
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