平助の母親

□67.
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「オレ、そろそろ風呂入るし、土方先生ももう帰ったら?もうすぐ23時だぜ?」



そう言われて腕時計を確認すれば平助の言うとおり、22時半をとっくに過ぎまもなく23時になろうとしているところだった。



「あぁ、もうこんな時間か…。」



そう呟いてチラッと名前の寝室へと目を向ければ、



「かぁちゃんならもう心配いらねぇって」



となんでもないことのように言う平助。




「だが、起き上がるにも一人で起き上がれねぇでどうやって水分補給するってんだ?」

「どうやってって…、オレだって朝までずっとついてたことねぇからわかんねぇけど、朝になったらいつも空になったペットボトル置いてあるから自分で起きて飲んでんじゃねぇの?」



あまりにも無責任な平助の態度についいつものようにこめかみに力が入ってしまうが、それもきっと話題の人物が名前だからで、他のヤツが寝込んでいたって本来ならこんなに気にする俺じゃない。


はぁっ…っと大きくため息をついて一度力の入ったこめかみを弛緩させて平助に声をかける。



「平助。」

「んあぁ?」

「おまえが入ったあと俺も風呂借りるぞ。だからさっさとしやがれ。」



言うだけ言ってソファーにどかっと座る。



「はぁあぁ!?なんで!?帰れよ!先生だって明日学校あるんだろ!?」

「学校は行く。」

「っじゃぁ…!」

「だが、今は帰れねぇ。」

「なんで!?」

「あんな状態で一人で寝かせとけねぇだろ。お前も明日は学校だ。きちんと寝なきゃ授業中寝ちまうだろ。そうでなくても普段から居眠りこきやがるし…。俺が朝までここで見といてやるっつってんだ。さっさと入ってさっさと寝やがれ」



そう言ってフンッと平助から顔を逸らせてそっぽ向けば「はぁあぁ!?」とまた騒ぎ出す。




「かぁちゃんなら平気だってば!別についてなくても心配ねぇって!」



だから帰れよと騒ぎ出す平助につい声をあげてしまう。



「心配するだろ!」

「え……」


「名前が平気でも……、
俺が平気じゃいられねぇんだよ…」



両膝に肘をついて組んだ両手を額にあてる。



「俺があいつの側を離れたくねぇんだよ…」




自分でも信じられねぇくらい情けねぇ事を言っていると思う。

だが……、
平助の前だろうがなんだろうが、

俺が側にいたところで何ができるって訳でもねぇが…、

今は誰がなんと言おうが名前から離れたくねぇんだ。


苦しいときくらい、一人じゃなくたっていいだろ?
俺がいるのに一人で耐え抜くことねぇじゃねぇか…。



「頼むから…、側にいさせてくれ…」



頭を下げたままの姿勢で、聞こえるか聞こえないかの小声で零れる俺の願い。





しばらくどちらからも発する言葉はなかったが、やがて平助から諦めたように大きなため息が吐き出される。




「…ったくもぉ〜。わかったよ。好きにすれば?」




そう言ってローテーブルの前を通ってサイドボードの上に飾ってある小物入れからチャリっと何かを取り出してそれをローテーブルに置いた。



「?」

「これ家の鍵。気がすんだらこれで鍵閉めて勝手に帰ってよ。閉めたら新聞受けにでも入れといてくれたらいいからさ」



そう言って俺の顔も見ずに廊下へと出ていこうとする。



「平助…」



顔をあげてその背中に声をかければ、平助は立ち止まるがこちらに背を向けたまま。



「オレさ…、なんかいっぺんに今まで知らなかったかぁちゃんの一面や土方先生の一面見せられて…、なんか訳わかんなかったんだけど…、」


「……………」


「本気で誰かを好きになったら…、他人には理解されなくても、好きな人の為ならどんな自分をさらけ出してでもやり遂げたいって思うもんなんだなって…、なんか土方先生見てたらそう思ったよ…」



そう言ってゆっくりとこちらを振り向いた顔はいつものヤンチャな平助の顔じゃなくて……、


「かぁちゃんのために必死になってる土方先生…、オレ、嫌いじゃねぇよ。」


ふっと笑う平助の顔はどこか名前の柔らかな雰囲気が見え隠れしていて、少し…、一回り大人になったような表情だった。

そんな平助を見て俺もふっと笑い立ち上がる。


「好きな人の為なら……、そうだな…。名前の為ならなんだってやれる。………だが、それは名前の為だけじゃねぇ……」


「?」


近づくオレを平助のでかい目が追って見上げる。

廊下に立つ平助の側まで行き、オレを見上げる平助の頭に手を乗せくしゃりと撫でて



「俺のためでもあるんだよ」



ふっと笑って言えばでかい目を更に見開いて一瞬オレを凝視すると、スッと俺から視線を外して心なしか目の下が赤らんでいく。



「なっ、なんだよそれ!ただの自己満足じゃん!」



そう言って階段を上がって行く平助の背中に、



「………そうだな」



ふっと笑って呟いた。




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