平助の母親

□65.
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千鶴の横を通って部屋に入ると、布団の上に寝巻きに着替え終わったかぁちゃんが座っていた。



「……、かぁちゃん…、寝てろよ」



氷枕をさっき千鶴がどっちに置こうって迷っていた枕の上に置いてポンポンと形を整えてやると背中からかぁちゃんの熱い腕がまわされて、肩にはかぁちゃんの顔が乗っかって熱い頬がオレの首にくっ付けられる。



「っ!?ちょっ!何かぁちゃん!重いし…、あっつぃ!」



ずっしりと乗っかられて布団に前のめり状態の俺にかぁちゃんはオレの首の前にまわした手をぎゅっと組んで俺にしがみつく。



「………へぇすけ〜、………ポカリほしぃ〜………」



それだけ言うと、くっつけた頬を離して顔を首にうずめるように項垂れる。



「………っ、かぁちゃん………、だったら…、離れてくれ…って…、重いし…、ぐる…ぢぃ……」



片手を布団について、もう片方は首に巻き付くかぁちゃんの手をほどこうとすると、かぁちゃんの熱い両手に掴まれてしまう。



「ぐぇ!……かぁ、ちゃん…?」

「ごめん、へぇすけ…。さっきまで、ホント…、平気だったの…。社長とも…、ちゃんと、お仕事の話も…、してきたし…」

「ぅぐ………、」

「あのね…、社長と近藤さま…がね、昔からのお付き合いがあって…、わたしもビックリしたんだけど…ね…。土方先生も…社長のお知り合いで…、それで土方先生も…呼ばれて来たの。」



それだけ言うと、苦しいのかハァっと熱い息を吐く。



「土方先生が来たのは…、ホントに帰りがけだったんだけど…、その時くらいから…かな、…わたし…、ふらついちゃって…、」



吐く息に混じってクスッと笑うかぁちゃんの苦笑い。


「せっかく…、社長と近藤さまと土方先生…、揃って久しぶりの再会だったのに…、わたしのせいで、…土方先生、トンボ返り…」



そういうと首に埋まってたかぁちゃんの重さが軽くなって、また頬をくっ付けてくる。
今度はオレの頬に。
頬擦りするように。



「かっ!…かぁちゃん…!」

「だから…、……、わたし一人だったら…、きっとどこかで、倒れて帰ってこれなかった…。…土方先生に、怒らないで…?」


ゴメンね…。



小さく謝って頬擦りの動きが止まると、力尽きたようにまた首にかぁちゃんの顔が埋まる。




「か…、かぁちゃん…?」



それ以上喋らなくなった、かぁちゃんの顔の方に首を捻って向こうとするけど、亀の親子みたいにずっしりと乗っかられてて、思うように動けねぇ…。

すると、枕の先の方にでっかい足のつま先が見えたかと思うと、さっさとその足はオレの背後に移動していって視界から消える。


土方先生…。


そう思った瞬間、背中にかかる重たかった圧迫から解放されて後ろを振り向けば、囚われた宇宙人のような格好でくたんとしたかあちゃんの両腕を掴んで立っている土方先生がいた。


土方先生はオレの目を見て、それから枕に視線を移す。

その視線の動きを見てオレは座ったままその場を後退ると土方先生はそっとかぁちゃんを寝かせて、足元にたたんであったタオルケットを被せた。



「……さっきは悪かった」



かぁちゃんの顔にかかった髪をどける土方先生と、オレとの距離が近づくとオレの目を見てはっきりとした声で謝る土方先生。

先生のこういうとこ、
悪い事したら潔く謝るところ…、

男らしいと思う…。

オレはこんな風に相手の目を見て謝るなんてなかなかできなくて、

だから…、土方先生のこういうところ見せられると自分がどんだけガキ臭いのか思い知らされてるみたいで嫌になる…。


だけど……、ここで目をそらしたら…。

オレはいつまでたってもガキのままだ!



「ったく……、ホントだよ…。マジ痛かったんだからな!」



ニッと歯を見せて口端をあげて右手の拳で土方先生の肩をぐいっと押してやると、先生はバランスを崩して片手を畳について、目を丸くする。



「土方先生、マジ必死すぎて笑える」



頭の後ろで両手を組んで言えば、



「……、当たり前だ」



一瞬ムッとした顔になったけど、オレからかぁちゃんへと視線を移すと、さっきのヤクザやチンピラみたいな剣幕とは程遠い穏やかな声で、優しく細められた眼差しでかぁちゃんを見つめてでこを撫でていた。


Next→66.オレと千鶴とかぁちゃんと土方先生。
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