平助の母親

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「かぁちゃん!」


玄関に靴を脱ぎ散らかして走ってきた勢いそのままで廊下からかぁちゃんの部屋の扉を開くと、今まさに土方先生の体から離れて布団の上に横たえられるかぁちゃんと、いきなり開いたとびらに驚いたのか、振り向いてオレを大きな目で見上げる千鶴。



「……、かぁちゃん…」



千鶴に何か言わなきゃとか思ったけど、オレを見上げる千鶴の視線から逃れるように土方先生とは反対側からかぁちゃんの布団の側に座る。



「かぁちゃん…、大丈夫かよ…」



小声で呟いてかぁちゃんの額にかかる髪をどけるとスゲー熱。



「ん…、へぇすけ…」
「熱高ぇじゃん…」



髪をどかしてオレの手がかぁちゃんの顔から離れると、かぁちゃんは薄く目を開けて、オレの名前を呟いた。



「大丈夫…。いつもの、アレだから…」



また目を閉じて、眉毛は苦しそうに歪めるのに口元だけ笑って言うかぁちゃん。
かぁちゃんの言葉を聞いて土方先生が



って………、

土方先生の顔………。



「おい、ヘースケ!いつものってなんだ!?持病でもあんのか!?」



方膝立てて…、
右手なんか拳握ちゃってるよ………。

今にも食って掛かって来そうな体勢でオレの目を真っ直ぐに射抜くような鋭い視線を向けてくる。

下にかぁちゃんいるのに…。



「ちょぉっと…、土方先生落ち着けってぇ」
「落ち着けって………、苦しんでるじゃねぇか!?」

「あ〜も〜、そんなの見りゃわかるって…。つぅか土方先生声でかすぎ。もう後はオレが面倒見るから帰っていーよ」



コンビニの袋を持って立ち上がり千鶴の後ろのドアを開ける。



「ほらほら、土方先生、車道路に停めたままだろ?もういいから早く行きなよな」



そう言って俺は廊下から台所に入って袋からポカリを出す。

あと、千鶴に…、と思って買ってきたコレも…。

とりあえず両方とも冷蔵庫にしまうとリビングの方から土方先生が出てきて台所の横に立つ。

体は廊下へと向いてんのに、横に立つ俺に向ける視線は半端なくまっすぐオレを突き刺す。



「車停めてくる。俺は名前が落ち着くまで帰らねぇからな。いいな!」



一方的にそう言ってオレを睨み付けると、一目散に玄関に駆け出す土方先生。


な、…なんだよ…。
いいな!って…。
ヤクザかあの人は!?


あんな目で睨まれたらいいも悪いもねぇじゃんか…。


呆気にとられていると窓からヴォン!と盛大にエンジンをふかす音…。

相当焦ってんな…。
そんなに焦ってぶつけてもオレ知らねぇからな…。




冷凍庫から氷枕を取り出して、洗面所にタオルを取りに行こうと廊下に出ると、開けっぱなしの扉から見える千鶴の背中。



「……、千鶴」



ちょっと躊躇ったけど、千鶴に声をかけるとぴくっと肩が上下して、ゆっくりと振り向いてオレを見上げる。
だけどその視線はオレの目とは合わずに少しだけ下の方…、オレの顎の辺りに向けられている。

ちゃんとオレの目を見てくれねぇんだな…。



「……、悪ぃんだけどかぁちゃんの服、着替え手伝ってやってくんねぇかな…。そこの引き出しに寝巻き入ってると思うからさ…」



オレもなんか千鶴の顔が見れなくなって引き出しを指差してさっと顔を逸らして洗面所へと歩き出した。


普段使わない引き出しから新しいタオルを出して氷枕をくるみながら洗面所から出ると、ガチャっと玄関が開いて土方先生が入ってきた。

廊下に立つオレを見つけるとめちゃくちゃ怖ぇー顔で睨み付けてずかずかと廊下を進んでオレの肩に掴みかかる。



「っ!?」



肩を掴む力とオレを真っ正面から睨み付ける目力がハンパねぇ。



「……、ちょっ…、土方先生、いてぇって…」
「…言え。」
「は?」
「いつものアレってなんだ?いつもあんな高熱出すのか、名前は!?」
「っ…!?…ぃって…」



土方先生の声のデカさと肩を掴む力の強さが比例して思わず顔をしかめる。



「いっ…、てぇよ先生!」



思いっきり腕を払いのけて怒鳴り付けて睨み上げれば、土方先生はハッとしたあと、「悪い…」とオレから顔を逸らして俯く。



「何テンパってんだか知らねぇけどさ、もういいから帰ってくれよ!大体なんでいつもいつも土方先生が出てくんだよ!?今日は仕事で遅くなるっつってたのに!」


「平助くん…」



オレが土方先生に大声をあげたところでかあちゃんの部屋の扉から千鶴が顔を覗かせてオレを呼んだ。



「………」



無言で振り向くと千鶴はなんだか悪いことしたみたいな困った顔で、視線を下げて



「平助くん、名前さんが呼んでるよ…」



そう言って部屋の中を振り返ってもう一度、オレの方に顔を向けた。



「………」



土方先生の事は無視してさっさと廊下を歩いて部屋に入った。
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