平助の母親

□64.
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ツーツーツー…。



「平助くん…、土方先生から?どうしたの?」



ケータイを耳に当てたまま呆気にとられてボーゼンとする俺の後ろから千鶴が尋ねてくる。



「……、いや、…つぅかマジ意味不明」

「?」

「なんか渋滞で高熱とか言ってたような…」

「え!?重体!?誰が!?」



突然狼狽える千鶴。



「それが土方先生、やたらテンパッてて主語言わねぇの。国語の先生なのにな!」



なんかさっきの土方先生の剣幕の凄さを思い出したら笑えてきた。
そんなお気楽なオレとは対照的にあごのしたに手をあてて少し俯いて心配顔の千鶴はオレに構うことなく土方先生からの電話の内容について考えているようだった。


「え…、でも、それってやっぱり名前さんの事だよね…。平助くんに電話かけてきてるんだもん。それに今の電話、名前さんの電話からの着信だったんだよね?」

「え?あ、あぁ…。う〜ん…、でも今日は仕事で遅くなるって言ってたのになんで土方先生と一緒にいるんだ?おかしくねーか?」


ケータイを見つめて首をかしげるけどわかんねぇ。



「とりあえず今はそんなこと言ってないで名前さんが重体なら帰ってきたときすぐに横になれるようにしといてあげなくちゃ!」


そう言って千鶴は大慌てで階段を降りていってしまった。


「あ!おい千鶴!待てってぇ!」



慌てる千鶴の後を追ってオレもかぁちゃんの部屋目指して階段をかけ降りた。




階段を降りて、玄関から延びる廊下を挟んだ向かい側にあるかぁちゃんの部屋。
そこの扉を開ければすぐなのに、千鶴はよっぽど慌ててたのか、普段そこを千鶴が開けることはないからいつも通りリビングへと向かってソファーの後ろから隣の和室に入って、奥のかあちゃんの部屋の襖を開けて入っていく。

俺も千鶴と同じようにリビングの方からまわってかぁちゃんの部屋に入ると、既に開け放たれたかぁちゃんの押し入れの襖。



「あ、平助くん、お布団の向きってこれで合ってる?」


まくらを抱えて、「名前さんいつもどっちに枕置いてるんだろう?」
と考え込んでいる千鶴に、
「あー、そういやオレかぁちゃんが寝てるとこあんまり見たことねぇや〜」
と言うと、「もぅ」と頬を膨らませて眉毛を吊り上げてオレを見上げる。



もぅって…!
マジかわいーーんですけど!!



ヤッベ!オレまじで千鶴が好きだ!


気付いたらオレは枕ごと千鶴をぎゅっと抱きしめた。
こんな時に…、
こんなことして千鶴がどう思うかなんて考えもしないで、ただオレの気持ちが、
ひっぱたかれたらどうしようとか、
ひかれたらどうしようとか、
嫌われたらどうしようとか、

なんかいろんなことぶっ飛ばしてそうしてた。



「へ…、平助、くん…」



オレの腕のなかで戸惑う千鶴の声…。

…だよな。驚くよな。
一度だけぎゅっと腕に力を込めて抱き締めてから腕の力を抜く。



「…ごめん、千鶴がかわいかったから…わりぃ」


そう言って千鶴の肩に手を置いて体をはなしてから笑って言うと、抱きしめた枕に顔を埋めた千鶴はなんにも言わなくて…。



「ま、マジでごめん!オレ…、コンビニ行ってポカリとか買ってくるよ!」



いつまでも枕をだきしめて動かない千鶴から逃げるように家を飛び出した。
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