平助の母親

□64.
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おとうさん…

確かに原田は俺にそう言い残して去っていった…。



おとうさん…。



俺が?



何故原田がこのタイミングでそう言ったのか、全くその意図が掴めねぇが、今はそんなこと考えてボーッとしてる場合じゃねぇ。

原田が消えた自動ドアから車へと向き直り、運転席へと乗り込む。

名前のシートベルトを絞めてやろうと助手席側へと体を寄せて手を伸ばし、目的のものを掴んで引き寄せようとしたときに感じた熱い吐息に、俺は一瞬で違和感に気付いた。



酔ってるんじゃねぇ。



シートベルトを掴んだ手を離し名前の左頬に掌をあてるとそこから伝わる名前の体温の異常な熱さに息を飲む。



「っ…、おまえ!熱があるなら早く言いやがれ!」



あまりの熱さについ声を荒げて言えば、



「……、ね…、つ……?」



うっすらと瞼を持ち上げるように開いた瞳を俺に向け、熱い吐息と共に返事を返す名前。

くそ!相当じゃねえか…!

とりあえず平助に連絡…、名前の自宅の電話は……、

焦る頭でケータイを操作して名前の自宅の電話番号を探すがアドレス帳にも発信履歴にもどこにも見つからねえ。



くそ!なんでねぇんだよ!?かけたことなかったか?

記憶を辿るが焦る頭では思い出す物も思い出せねぇ。

ちっ!時間のムダだ!


急いでキーを挿し込み一気に捻ってエンジンをふかす。

切り裂くようなタイヤの摩擦音を響かせハンドルを切り地上へ走らせた。




ホテルから出るとこの街の繁華街を抜けなければならず、週末のこの時間帯は車の量も街を歩く人の量も半端ねぇ。



「ちっとも進まねぇ…」



繁華街を抜ける直線道路で、これで何度めの赤信号に足止めを食らったか…。

どうやら前方で交通規制が張られているらしい。



「くそっ!」



名前へ視線を向ければ、
目を閉じて熱い息を細切れに小さく吐き苦しそうに眉をひそめている。



「名前…、大丈夫か?」



そう聞くことしかできない俺に小さく頷く名前の表情を見ていると胸の奥が締め付けられるように苦しくなる。

見ていられなくて視線をふと逸らすと後部座席に名前の鞄が視界に入る。



「!」



ギアをニュートラルに入れて体をグッと伸ばし後部座席の隅に置かれた名前の鞄に手を伸ばして引き寄せる。


「ケータイ、借りるぞ」



もうこうなったら名前の承諾なんてカンケーねぇ。
中身を漁りケータイを取り出して発信履歴を開けば一番前に表示される平助のケータイナンバー。

迷わず発信ボタンをタップして耳に押し当てる。



呼び出し音が数回繰り返され、待っている間がやたら長く感じられる。


頼む、平助!出てくれ!


祈るような気持ちでコール音を聞いているとようやく途切れた音の後に聞こえる間延びした平助の声。



『なにかぁちゃんもぉ帰ってくんの〜?別に電話とかい〜からさぁ〜』

「ヘースケ!俺だ!」

『げっ!?っつーか土方先生!?なんで!?』

「どーでもいーからちょっと聞け!今そっちに向かってる最中なんだが渋滞でちっとも進まなくてすげぇ高熱なんだ!帰ったらすぐ寝れるように準備しといてくれ!」

『え?え…?ちょ…!土方先生何言って…ってちょっと落ち着けって…』

「うるせぇ!?いいからちゃんとしとけ!わかったな!?」

『ちょ!先生、マジ意味わかんねーからってちょっと!聞いてん…』



漸く進み始めた前方に目を向け、言うことだけいって通話終了。


待ってろよ名前!
俺が今すぐ家まで送ってやるからな!
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