平助の母親
□63.
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「大丈夫か?明日は定休日だしゆっくり休めよ?」
「はぃ…」
名前の荷物を持ち声をかける原田に弱々しい返事を返す名前。
「今日は俺も元々新八たちと一緒に飲むつもりだったから車で来てねぇし送ってやることもできねぇし…。すまねぇな」
「ん…、だいじょぶれす…」
今にも消えそうなほどの声量で呟き目を瞑るように伏せる名前。
そんな名前の様子を見て
「こりゃ明日は二日酔いだな」と鼻からため息をつくと俺に向かって話し出した。
「土方さん、こいつ送り届けたらきっと平助に文句言われるぜ?」
原田が俺にニヤリと視線を向けてそう言うと、ポーンと軽快な音と共に目の前の扉が開く。
「?」
エレベーターに乗り込み行き先ボタンを押しながら原田に視線を向け言葉の先を促すと、原田は一度名前に視線を落として
「こいつ、今日の食事会で帰りが遅くなること、平助に連絡したら『仕事なんていって本当は土方さんと会うんだろ!?』って言われたらしくて」
「はぁ?」
「その後こいつ、スゲー落ち込んじまって全然いつもと調子が違っちまってさ」
「…………。」
「実際仕事で遅くなったってのに、土方さんに送ってもらってたらやっぱりかよってなっちまうよな」
しかもこんなぐだぐだになっちまって…。
呆れたように呟いて名前の顔を原田が覗きこむと同時にまた軽快な音と共にエレベーターの扉が開く。
エレベーターから降りて自動ドアを出ると地下駐車場独特の空気に包まれる。
名前を抱える反対側の手でリモコンキーの解錠ボタンを押すと、駐車場の一画で光るハザードランプ。
もうほとんど力の入っていない名前の体を支えながら助手席のシートに座らせリクライニングの角度を調整してやる。
「大丈夫か?」
目を閉じ、こちら側に傾けた名前の顔を見て尋ねるが、返ってくるのは小さな頷きだけ。
ため息ついて立ち上がり、静かに助手席のドアを閉めて、原田から名前の荷物を受けとる。
「駅まで、乗っていくか?」
「いや?すぐそこだし歩きますよ。」
にやっと笑みを湛えて
「それじゃ、平助にもよろしく。おとうさん。」
「!?」
ひらひらと肩越しに手を振って歩き出す原田に思わず声が出そうになったが、吸い込んだ息の音だけでも響くような場所であることにとっさに口を塞ぎ、
「あいつ…、今なんつった……?」
自動ドアへと消えていく原田の後ろ姿を呆然と見送ることしかできなかった。
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