平助の母親
□63.
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☆★やっぱり頼りになるのはとしくんですよね。★☆
「お前にはコレが良いんじゃねぇか?」
そう言って名前の膝から取り上げてさっと目を通したカタログの中から一着、目についたデザインを広げてテーブルに置く。
すると男共全員が一斉にを覗きこむ。
ワンテンポ遅れて覗きこむのはどうも様子のおかしい名前。
「どうだ?」
名前の様子を窺いながら反応を確かめる。
「あ…。いいですね!素敵です。これにします」
やはりワンテンポ遅れている。
本人は気付いていないようだが、ほんの少し目の下、頬が赤らんで瞳も潤んでいる。
酒の飲みすぎか…?
ったく…。いくら付き合いだからって、家で子供に留守任せてるならちったぁ考えて飲みやがれ…。
とはいえ…、
まぁ、こいつが自ら進んで飲むとも思えねぇんだがな。
大方近藤さんが調子にのって次から次へと飲ませたんだろうな…。
そう思うと尚更ギリギリの時間まで抜け出せない環境にいた自分が悔やまれる。
松平先輩とは久々の再会で、ゆっくり積もる話もしたいところだが、早いとここいつを帰してやらねぇとな…。
「よおし!デザインはこれで決定だな!うんうん、いいじゃないか!」
満足げな近藤さんは「じゃあ次はこのドレスに合う色だな。苗字さんにはどんな色が似合うかな?」
布地のサンプル集を掲げて名前の顔の下に合わせるように腕を伸ばし片目を瞑る。
「この青空のような青なんかどうだ?爽やかじゃないか?」
そう言って近藤さんが開いて見せたのは爽やかな初夏の青空のような涼しげな浅葱色。
確かにこのさっぱりとした晴れやかさを思わせる色は近藤さんの好きそうな色だが…。
「俺はこっちだな」
やはり名前にはこの色しかねぇな。
近藤さんから布の束を受け取り俺が出したのは光沢のある白いサテン生地。
光の加減でうっすら水色に輝く白さは、俺の思い描く清らかな名前のイメージにぴったりだ。
「それに…、この生地でストールってーのか?肩にかけるのも合わせて作ったらどうだ?」
近藤さんがさっき提案した浅葱色で、素材は透けるシフォンの柔らかい布を出せば、
「おぉお!!いいじゃないか!とし!いいぞ!!」
大興奮の近藤さん。これは相当興奮している…。
「やっぱりトシは相変わらずだな…。頼もしいよ」
先輩も感心したように俺の選んだ生地を併せ持ってデザインを見る。
「よし!これで決定だな。ありがとうトシ」
そう言って給仕の男に何か伝えると机の上に散らかったカタログやらを一纏めに置く。
「さぁ、決めるものも決めた事だし、もう一杯飲むかい?」
先輩がそう言うと給仕がワゴンにグラスとワインを乗せてゆっくりと姿を現す。
「あ、すいません。俺はそろそろこの辺で…」
原田がソファーから立ち上がりそう言うと、
「あ…、わたしもこれで…」
そう言って立ち上がる名前だったがふらついてぽすっとソファーに沈む。
「お…、おい大丈夫か?」
「あ…、あれ…?」
とっさに原田が手を差し出すがなにがなんだかわからないといった顔でキョトンとする名前。
「おいおい、大丈夫かよ…。飲みすぎじゃねぇのか?」
差し出した手で名前の腕をつかんで立たせて「手まで熱くなってるじゃねぇか」と呆れて笑う。
「あは。ワインとかシャンパンなんて普段飲まないようなのはやっぱり慣れなくて…、やっぱり後から来るってホントなんですね」
眉を下げてすいませんと笑う名前に「大丈夫かぁ?ちゃんと家まで帰れるのかよ?送ってやりたいのはやまやまなんだが、今日は俺、地下鉄だしなぁ…」と原田が言うと、そんな二人のやり取りを見た近藤さんが俺に目配せをする。
「トシ…、」
近藤さんが言いたいことはわかっている。
「すまないトシ、来たばかりで申し訳ないが…。」
「別にいーよ、近藤さん。こいつの御守りなら買ってでもやってやるさ。じゃ先輩、次いつになるかわからないけど、また連絡ください。」
「あぁ、今日はトシの顔が見れただけで良しとしておくよ。次回ゆっくりいろいろ聞かせてくれ」
原田から名前の腕を取り、肩を抱いて扉へ向かう。
そんな俺たちをみて先輩は穏やかな笑みを浮かべて見送ってくれる。
「近藤さん、明日も学校あるんだから程々にしておけよ」
「あぁ、俺なら大丈夫だ」
ほんとに大丈夫か?
そう思いつつも、体温の高い名前の体を支えて原田と三人、エレベーターホールへと向かった。