平助の母親

□62.
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☆★みんなで衣装選び。★☆QLOOKアクセス解析





優しくて穏やかな社長と朗らかで楽しい近藤さまを中心に会話が弾み美味しいディナーも宴も酣、
食べ物も残り僅かで車を運転してきた山南部長以外みんなでアルコールを嗜み始めた頃、
社長がそれまで近藤さまと一緒に砕けた口調で話していたのに、ぽつりと静かに話始めた。



「今日は忙しい週末だというのに急に呼び出したりして本当にすまなかったね…。」


グラスに視線をおとし伏せられた社長の瞳。


「近頃はなかなか日本に纏まった滞在時間が作れなくてね…。こうしてほんの僅かな時間でもいいから君たちと直接あえて嬉しかったよ…」


顔を上げてわたしと原田さんに優しく微笑んでくれる。


「山南部長から伝えてもらってると思うんだが、君たちの授賞パーティで着てもらう衣装をぜひ用意させてほしくてね…」


そう言って顔を奥の部屋の入り口に立っていた給仕の男性に向け合図をすると、男性が奥から大きなトランクケースを運んで、部屋の窓際に設置された応接テーブルの上に中身を広げ、丁寧に配置した。


「さ、こちらへ」



社長の言葉で全員が席を立ち、応接ソファーに腰を下ろすと社長からずっしりとした重厚な装丁の大きな本を手渡され、わたしと原田さんは一度その重さにキョトンとし、お互い二人目をあわせ、同時に社長へと視線を向ける。


「あの、社長…、これは……?」

「はは、いいから中を開いて見なさい」


言われた通り固い表紙を開いてみると、中表紙には世界的に有名な一流ブランド名と今年の西暦の金字の刻印。

もう一度原田さんと目を見合わせて、さらにもう一枚ページを捲ると、目に飛びこんできたのはきっと今年の最新デザインであろうファッションアイテムの数々…。


「その中から一着、気に入ったデザインの物を選びなさい。」


ペラペラとページを捲っていると社長から声をかけられて、私たちは目を丸くする。



「え!?でも社長!これって…」


膝の上の重たくて大きなカタログ、
テーブルの上には様々な素材の色とりどりの布地が重なったサンプル…。



「オーダーメイド…?」

「このブランドの場合、オートクチュールってんだよ…」


わたしの呟きに隣に座る原田さんが答える。



「お、オートクチュール…」


またしても未知の世界の話に目の前がくらくら…。
そんなわたしの様子に社長はクスクスと目尻を下げて笑うばかり。



「……、このブランドにはね、私には特別な思い入れがあってね…。
私が社長に就任するときに、会長…、先代の社長にやはりここで特注で作ってもらったんだ。
その時の嬉しかった気持ちが忘れられなくてね。今でもここぞ!というときに愛用しているんだ。
だからもし自分がお祝いをしてあげられる立場になったときは、同じようにして喜んでもらいたいと思っていたんだよ。
我が社から一度に二人もメーカー本部からお眼鏡にかなった優秀な二人のために、今私のやりたかった事が一つ叶うんだ。
だからほら、余計なことは考えずに。気に入ったデザインを選ぶ、それだけを考えなさい」

急かすようではないけれど、選ばないといつまでも帰さないよという社長の追加の声が聞こえてくるようで、「は、はいぃ!」と返事をして余計なことは考えないように必死にページを捲った。
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