平助の母親

□61.
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「初めまして、苗字さん。此度の受賞、本当におめでとう。」



社長から右手を差し出されたわたしは、その手を両手で取り握手して顔を見上げれば、優しく微笑む社長の目と合った。


「あ…、ありがとうございます…」


初めてお目にかかった社長は近藤さまと同年代くらいの方で、こんな若い方がこの誠自動車の総てを束ねる人なんだ。と思わず見いってしまう。


「此度の受賞、本当にこの誠自動車にとっては素晴らしい事で、近年の輸入車離れの現状を回復させる一歩として我が社としても、勿論メーカーとしても期待しているイベントなんだよ。入社して間もない君には少々荷が重いと感じてしまうかも知れないが、君にしかできないアピールで、『同じメーカーブランドの車でも誠自動車で買いたい』と思ってもらえるような発表をよろしく頼むよ」


そう言って空いている左手をわたしの肩にポンと置いて、とても誠実な眼差しでまっすぐに見つめられる。

そこには会社の発展や、自分自身の利益や保身だけを思う役職者独特の厭らしさなんて感じは全然なくて、

ただ、本当にわたしの事を信用して会社の為になるミッションをわたしに任せてくれている


そんな社長のお気遣いが感じられる誠実な瞳だった。


「はい…」


けれどわたしは未知の授賞式を思うと、『お任せください!』なんてとてもじゃないけど言えなくて、誠実なお言葉をくださった社長には申し訳ないくらい情けない返事をしてしまう…。


そんなしょぼくれたわたしに、社長はにっこりと微笑んで


「大丈夫。」


と肩をポンポンと軽く叩いて励ましてくれた。


「なによりメーカー本部の人間が君を選んだんだ。恐れることは何もないよ。むしろ歓迎されるだろう!」


社長の、一点の曇りもない笑みはまっすぐにわたしの背中を押してくれるようで、胸に詰まる不安まで叩き出してもらえるような気がする。


「さぁ、立ち話はこの辺にして晩飯にしようじゃないか!」


急に砕けた口調になった社長に合わせてわたしの後ろに立つ近藤さまも、相変わらずの朗らかな声で


「そうだそうだ!
苗字さん、腹が減っては笑顔も発揮できぬ!だからな!」


はっはっは!と大きな口を開けて笑いながらわたしを社長の手前の席に座るようにエスコートしてくれる。

そしてわたしの横の椅子に手を掛けて、


「原田くんは向こう側だぞ?」


とわたしの正面の席を指定する。


「あ、はい…」


近藤さまの指示通り苦笑いの原田さんは社長の手前に座り、その隣に山南部長。


「さぁ、目一杯食って楽しい時間にしよう!乾杯!!」


シャンパングラスを掲げた社長は、とても素敵な笑顔だった。


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