平助の母親

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就業後、
と言ってもわたしの就業時刻は18時で、ショールームの閉店時間は19時だから、今日は一時間残業して閉店した店内で原田さんと二人、山南部長のお迎えを待つ。


「………、BGMがないとやっぱり寂しいですね…」

照明も窓際の間接照明のみ残して消してしまって、いつも店内に流れているBGMも今は無音。

いつも営業時間内に先に帰らせてもらっているから、こんなに暗くて静かなショールームは初めて。


「あぁ、特に今日は明日が休みだからみんなさっさと帰っちまったしな」


サービスフロントの人たちも工場の人たちも、みんな戸締まりして閉店直後ササッといなくなってしまった。


「オレもこんなことなけりゃぁ、今頃新八たちと飲んでんだけどなぁ〜」

頭の後ろで手を組んで、デスクのイスに仰け反って伸びをする原田さん。


「………、なんか、すいません……」


わたしが付き合わせちゃってるような気になってつい謝ってしまう。


「あぁ?なんでお前が謝ってんだよ?別にお前は悪くねぇだろ」

ちょっと呆れ気味に笑ってそう言うけど…。


「お前が頑張ったごほうびに俺まで肖れるんだから感謝してるんだぜ?」

どんなスーツ貰えんだろな!?
とワクワクした様子で笑う原田さんに、私も少しだけ、ぎこちない苦笑いを浮かべて窓の外に目を向けた。



日曜日の夕飯時とあって街の中心から少し外れた表の通りも、クルマの行き交う流れはあれどショールームの前を歩く人の姿はほとんどない。


………、
平助………、今頃千鶴ちゃんとご飯かな………。

その場に一緒に居れない事が少しさみしくて、
わたしの話も聞いてもらえないこともさみしくて窓の外の流れをボーッと見つめていると「そういえばさ…」と原田さんが口を開いて訊ねてきた。

その声に振り向いて椅子ごと少し回転させて原田さんの方に体を向ければ、わたしの膝の上に抱えるように乗せていた鞄を指差して、

「今日はいつもの鞄と違うんだな」

なんかあったのか?と特に新しいものに変えたわけでもないのにいつもと違う鞄を持ってきたことを不思議に思っているようだった。

「え…?あ…、原田さん、…よく気が付きますね」

「そりゃあ、ウチの唯一の姫君だからな。スーツのインナーの変化だって欠かさずチェックしてるぜ?女のファッションチェックって見てるだけで楽しいからな」

いつものセクシーとはかけ離れた無邪気な笑顔を見せられて、言われた内容は取りようによってはセクハラ発言なのになぜか許せてしまう。

「ふふ、昨日ちょっと雨に濡れちゃって…。今家で乾かしてるんです」

「あぁ〜…、昨日大所帯で帰ってったもんな。あの沖田ってヤツがいたらフツーには帰れないだろうしな」

昨日のショールームに集まった近藤さまをはじめとする面々を思い浮かべて苦笑いの原田さん。

「沖田くんは関係ないんですけどね…。」

原田さんの沖田くんに対する第一印象の悪さがなかなか払拭されない様子にわたしもつい苦笑い。

「そうなのか?」

「ふふ、そうです」

笑って答えれば、少し目線を上げて何かを思い浮かべるように「ふ〜ん…」と唸ると

「んじゃあ土方さんか」

にやっと笑みを浮かべて視線をわたしに合わせる。


「えっ!?なんで?違いますよ!これはちょっと…、家の前でちょっと落としちゃったんです。土方先生も関係ないです」

もぉ、何言ってるんですかと笑ってイスの向きをもとの向きに戻しながら原田さんから視線を外すと

「でもなんかあったよな」

はっきりとした、まるで
わたしの背中から心臓を貫くような鋭さを持ったその声に、

わたしは、原田さんがどんな目をしてわたしを見ているのか
怖くて振り向くことすらできなかった。
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