平助の母親

□59.
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「それでですね、お二人ともお忙しい時間を割いていただいたのは、その衣装の手配に今夜集合していただきたいとの社長の御要望をお伝えする為でしてね。終業後、お時間作っていただけますね?」


いきなりの山南部長の言付けにまたまた慌てて声をあげてしまうわたし。


「えぇっ!?いきなり今夜って!」

今日こそ平助と向き合って昨日のこときちんと話そうと思っていたのに…。


「無理ですか?社長もお忙しい中、今夜の時間を作っていただけるということなのですが…。」


眼鏡をくいっと指で上げて少しうつむき加減で言われたら、そんなの迫力ありすぎて何も言い返せないよ…。

わたしがぐぅの音も出ないでいると、


「それって社長も服買いにいくのに俺たちに同行するってのか?オレら各自で買って領収書きってもらってくるんじゃダメなのか?」

原田さんも、別に今日じゃなくても…と聞く。


「…、社長がわざわざお時間を作ってあなたたちと…、とおっしゃっているのですから、きっとその辺のお店へ買いに行く…、ということではないと思いますよ?」


向けられた眼鏡の奥の眼差しに原田さんは一瞬目を丸くしたけれど、ふぅと鼻から息を吐くと、

「ならしゃーねぇかな」

と納得してしまった。



「そういうことですので苗字さんもよろしくお願いしますね」


そう言って山南部長はテーブルに手をついて立ち上がるとロッカールームから出ていってしまった。




「……………。」

「……、苗字?」

心配そうに声をかけてくれる原田さんは

「多分今夜は遅くなりそうだぜ?平助に連絡しといた方がいいんじゃねぇか?」

と私の肩に手をおいて私の顔を覗きこむ。


「……、遅くなりますか…?」

「ん〜、まぁ、オレの予想だと飯くって服選んで……、早くても22時くらいじゃねぇか?」

「22時…。」

22時くらいなら平助と話くらいできるよね…。

そんな事を考えていると、



「平助と飯食えなくて寂しいのか?」


ニヤリと笑った原田さんの顔が近くて思わず飛び退く。


「さ!寂しくなんかありませんっ!」


言い返すわたしを面白がって笑いながら立ち上がってぽんぽん頭をたたいて

「ま、今日は平助と晩飯食えないのは確定だから、今のうちに連絡しといてやれよ?まだまだ忙しいんだから早く来いよ〜」

そう言って原田さんはロッカールームを後にして、お客様で溢れるショールームへと戻っていった。


そうだ、平助に連絡しなくっちゃ。
とりあえず時間がないけど、帰ったら昨日の事ちゃんと話そうって事だけでも言わなきゃ!

ロッカーにしまってある鞄からケータイを取り出して、平助のケータイ番号を表示させて発信ボタンをタップした。
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