平助の母親

□53.
2ページ/2ページ

QLOOKアクセス解析





玄関のたたきで両手の塞がったわたしととしくん、それから近藤さまも扉を背中で押さえて立っていると平助と千鶴ちゃんが洗面所からタオルを持って来てくれた。

「名前さん!ホントにすいませんでしたっ!」

何度も何度も申し訳なさそうに言って私の手に持つ鞄の中身をタオルで包み込んでもうひとつのタオルで私の頬や肩をそっと押さえて水滴を拭き取ってくれる。

「ありがと千鶴ちゃん。私は大丈夫だから近藤さまと土方先生にも、タオルお願いね」
「あ、あっ…、はいっ!」

懸命にわたしばかり拭いていた千鶴ちゃん、完全にわたししか見えてなかったみたいで、ハッと顔を上げて私の後ろにいるとしくんと近藤さまに目を向ける。

「い、いや、俺たちはこれで…」

そう言って千鶴ちゃんの広げるタオルの上に、としくんも拾ってくれた私の荷物を乗せて、びしょ濡れになってしまった鞄も千鶴ちゃんの手に渡す。

「えっ!でもそのままじゃ…」
「そうです!風邪ひいちゃいます!」

私の言葉に千鶴ちゃんも勢いよく言葉を被せる。

「い、いや、車もキーつけたまま表だし…」
「すぐ停めてきてください!」

ピシャリといい放つ千鶴ちゃんにとしくんも、それに近藤さままでハイと言わざるを得ないようで、

「よ、よし。ここはオレが車をなんとかしてこよう。トシはしっかり頭を乾かしておくんだぞ!」

そう言うと慌ててまた雨の降る中へ出ていってしまった。

「あ!近藤さま!傘っ…!」

閉まる玄関の扉へ手を伸ばそうと体の向きを変えると、後ろにいたとしくんに正面から肩を捕まれて
「すぐそこだし、今更傘さしてもかわんねぇから」
とおさえられてしまう。

「あぅ…。」
「はい、土方先生もタオルどうぞ。早く上がってください!」

千鶴ちゃんに腕を引っ張られてタオルを持たされるとしくん。

「名前さんも、ホントにごめんなさい…。体が冷えちゃう前に早く着替えてください」


としくんと近藤さまにいい放つ声色とは違って、ホントに申し訳ないという気持ちが伝わってくる。

「千鶴ちゃん、ホントに大丈夫だからもう謝らないで?笑って?」

俯く千鶴ちゃんに顔を覗きこみながら言えば 「は、はいっ!」と答えてくれた。

私も千鶴ちゃんの返事ににっこり笑って

「それじゃー、私は着替えてくるけど…、先生方はどうしましょうか…?」

チラッととしくんに視線を向けると、

「いや、だから俺たちは…」
ととしくんが言いかけたところで、それまで黙ってた平助が発言する。

「シャワーでよければ使えば?その間服もドライヤーかなんかで乾かしといてやるからさ」

なんでもないことのように言う平助に一瞬耳を疑ってしまう。

「そうだね!さ!先生こちらです!」

平助の提案に千鶴ちゃんも早速としくんを洗面所へとひっぱっていく。

「お!?おい!千鶴!」

焦りながらも洗面所へと消えていくとしくん。
丁度としくんの姿が消えた頃玄関の扉が開いてずぶ濡れの近藤さまが入ってくる。

「いやぁー、参った参った!こりゃあこれからもっと降るぞー!…おや?トシは?」

「土方先生今風呂場。校長先生も入ってこれば?」

平助からタオルを持たされ玄関のたたきで状況が飲み込めてない近藤さま。

「………、お時間よかったら…、どうぞ?」

上がってくださいと促すと、

「いいのかね?苗字さんのお宅に上がってしまって、いいのかねっ!?」

とたんに輝き出す近藤さまに思わず笑ってしまって、

「こんな家ですがゆっくりどうぞ?」

と近藤さまの背中に手を当てて上がってもらった。


Next→54.見ていてくれる人がいる。
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ