平助の母親
□53.
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☆★雨の入口★☆
シトシト降っていた雨もだんだん雨足が強くなる中、
先生の車でこうして家に送ってもらうのって、もう何度目になるんだろう…。とふと思う。
何度目かの今日は初めての後部座席で、助手席に座る近藤さまの後ろの位置から見えるとしくんの横顔が、なんだかいつも見る角度とはちがって、前を見ながら近藤さまと会話する眼差しに見とれてしまう。
いつもは隣で時折向けられる視線にドキドキしながら会話して、って感じだから私も気の抜けた顔見せられないな〜なんて思っている訳だけど、
こうしてとしくんの視界に入らない場所から、としくんの横顔をゆっくり眺めたり、としくんの少し低めの落ち着いた声や、近藤さまの言葉に反応してひっくり返った少し高めの声を堪能できて、
後部座席最高!
なんてこっそり心のなかで思っているとあっという間に我が家の前に到着する。
いつもと同じように停めた車から降りようとドアを開けると、いち早く降りた近藤さまが外からドアを開けてくれる。
「ほら、濡れてしまうからね?」
と言って大きな体を纏っていた薄手のシャツを広げて私を覆うように近藤さまの脇に寄せられる。
その男らしい優しさにポッとしながらも、玄関の軒先まで連れてってもらうとガチャっと玄関の扉が勢いよく開いて、開いた扉におしりを押されてバランスを崩してしまった。
「きゃっ!」
「苗字さん!」
わたしと向かい合っていたことですっぽり近藤さまの懐に支えられ事なきを得たけれど…。
「っ!?…名前さん!すみません!!」
「……、いやぁ〜。今日は役得だなぁ」
ドアを開けた千鶴ちゃんが小さく開けた扉の隙間から顔を出して驚いて、私を支える近藤さまはよろけて片足を一段低い段について、片手は頭の後ろをポリポリポリ。
「すっ!すみません!!」
慌てて近藤さまから体を離すと、軒先から外れていたせいもあって近藤さまのシャツはすっかり冷たく濡れてしまっている…。
「こ、近藤さま…。びしょびしょ…」
申し訳なくて近藤さまの顔を見上げると、
「こっちもびしょ濡れだ」
としくんがいつの間にか車から降りてきていて何故か地面に散らばる私の鞄とその中身をしゃがんで拾い上げている。
「え…、あ…、あれ?」
さっきの扉の衝撃で肩にかけていた鞄が落ちてしまったんだ!
慌てて私もとしくんの傍にかけよりしゃがみこんで散らばったものをかき集めて、としくんをみあげる。
「としくんもびしょびしょ…」
申し訳なくて小声で呟くと、
「これくらいどぉってことねぇよ」
とふっと優しく微笑んでくれた。
「かぁちゃん!大丈夫かよ!?」
玄関が大きく開けられて千鶴ちゃんの後ろから平助が姿を現すと
「やぁやぁ!平助くんに雪村くんじゃあないか!」
大きな声で近藤さまが笑顔を二人に向ける。
「んあぁ゛っ!?校長先生まで!?」
開けたドアから首を伸ばして近藤さまを見つけると一層大きな声で驚く平助。
「っ!」
そんな平助と扉に挟まれるようにいた千鶴ちゃんが、そこからするりと抜け出して私たちの方へ駆け出そうとするのを近藤さまがそっと伸ばした左手で止める。
「校長先生…」
止められた千鶴ちゃんは驚いて近藤さまを見上げ、近藤さまは優しい笑顔で、
「もう大丈夫だから、雪村くんまで濡れてしまうよ?」
とゆっくりと落ち着いた声で諭す。
「う……、す、すみません!!」
ガバッと頭を下げる千鶴ちゃんを玄関の扉に立つ平助が中へと連れて入り、わたしととしくんも濡れてしまった鞄とその中身を持って近藤さまが開けてくれている扉を通って玄関へと入った。