平助の母親

□49.
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はぁ…

まさか近藤さまに知られてるなんて…。


ちょっと恥ずかしいような…。

でも、わたしととしくんの関係を咎めるどころか、むしろ応援してくれているみたいで、わたしたちが思うほど深刻に思い悩むことじゃなのかも…。
なんて少しだけ気持ちが軽くなった。


それに、平助の事もよく見てくれているみたいで、
ちゃんと生徒一人一人を大切に思ってくれているんだな…。
やっぱり近藤さまって素敵な人。




そんなことを思いながら展示している一番最近販売開始したグレードの車を見ている二人へと視線を向けると、ボンネットを開けて一生懸命エンジンについて熱く語っている近藤さまと、その説明を腕を組んで軽く覗きこみながら聞いているとしくん。

ほんとに車が好きでにこにこ顔の近藤さまと、としくんの表情の温度差にクスッと笑ってしまう。
こっちにチラッと視線を向けたとしくんとぱちっと目が合ってドキッとすると、苦笑いのとしくん。

その表情にまた笑ってしまうと、自動ドアが開いて急にショールームの中が賑やかな雰囲気になる。


「名前ちゃ〜ん!」

「お、沖田くんっ!?」


突如ショールームに入ってきた沖田くんは子供のようにわたしをめがけて駆け寄ってくる。
わたしの座るカウンターまでくると「こんにちは」と礼儀正しいあいさつをしてにっこり微笑む。


「こ、こんにちは。……って、どうしたの?」

「ん?うん、今日はね、一君に付き合って病院と図書館に行ってきたんだ。ほら、僕今一君の保護者だからさ」

首をコテッっと傾げる沖田くんの向こうに、おずおずと自動ドアの近くで申し訳なさそうに立っているはじめくんが見えた。


「はじめくん、早くこっちおいでよ」


自動ドアの感知範囲に立っていたのでドアが開いたり閉じたり…。


「す、…すまない」


慌てて沖田くんのそばまで来たはじめくんにこんにちはと挨拶をすれば、下を向いて
「仕事中なのに総司が邪魔をしてしまって申し訳ありません」
と小さな声で丁寧に謝られてしまった。


「ふふ、邪魔だなんて…。大丈夫だよ?」
「そうだよ。…それに……」


沖田くんが意味ありげな眼差しでショールームの奥へと視線を向けると、


「オォ!総司じゃないかぁ!」

と、大きく手を広げてこちらへ来る近藤さまが見えた。



「お久しぶりです、近藤さん」

「いやー!久しぶりだなぁ!斎藤くんも!
元気にしていたかい?」

一気にカウンター周りが賑やかになって、他のお客様が驚いたりしないかちょっと心配になってショールーム内をチラッと見回してみたけど、幸い夕方過ぎのショールームには今のところ他にお客様はいないみたいだった。



「総司たちもここの車に乗っているのかい?」

近藤さまがワクワクして訊ねると、沖田くんもにこにこ顔で

「いいえ?僕達まだ車持ってないんです」
と答える。

「そうなのか!じゃあ、近々買う予定なのか?」

「いいえ?」
「んん?」

車を買うつもりもないのに何故?といった表情の近藤さまに、

「一くんの家に帰ろうとここの前を通りかかったら、偶然近藤さんと土方さんの姿を見かけたので」
とにっこり。

「でもその前に名前ちゃんに挨拶しようかなと思って」
わたしにパチッとウインクしてみせる沖田くん。

「だけど土方さんの気持ち悪い笑顔を見たらそっちに行く気が失せちゃって」
「誰が気持ち悪いだとっ!?」

近藤さまの後ろからそれまで黙って沖田くんの様子を見ていたとしくんがドスの効いた声で怒鳴る。

「あはは。そんな怖い声出す人があんな顔してデレるだなんて…。気持ち悪い以外の何物でもないじゃないですか」

あはは、とまるで悪びれる様子もなく涼やかな笑顔の沖田くん。
あははがちっとも笑い声に聞こえない…。

「でっ…デレ……、っ!そっ、総司!!」

今にも一触即発の二人の間で
「まぁまぁ、総司も悪気があって言った訳じゃあないんだから…」
と近藤さまが宥めるけれど、

「今の発言のどこが悪気がないってんだ!?」
と大荒れのとしくん。

「あ〜あ、大人げないなぁ〜」
両手を頭の後ろで組んでせせら笑う沖田くんの態度にとしくんはますますヒートアップ。


「あ、あの…」


も、もぉ…、
この組み合わせ、
収集つかないっ!

はじめくんに視線を向けると目を閉じて首を左右に振るしぐさ。



え………。
それって、放置……、

ですか……?


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