平助の母親

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休憩を終えて時計の針も夕刻を指すピークの過ぎたショールームで、本棚やカタログ、キッズコーナーを中心に片付けをしていると自動ドアの開く音がお客様のご来店を知らせる。

「いらっしゃいませ!」

ショールームの奥にあるキッズコーナーから大きな声で言えば、事務所の方からも同じようにお客様をお迎えする声が聞こえてくる。

パパパッととりあえずの形におもちゃを片付け靴を履こうと座った状態で方向転換すると、展示車の向こう側から「やぁやぁ!」と片手を上げてこちらに向かって歩いてくる近藤さまの姿が見えた。


「あ!近藤さま!いらっしゃいませ!」


急いで立ち上がろうとしたら、片付けるのを見落としていたのか、キッズコーナーのマットと同系色のスーパーボールを踏んでしまって立ち上がる足のバランスを崩してしまった。


「きゃっ!」
「っ!苗字さんっ!」


倒れると思った私をしっかりと支えてくれた近藤さま。

「………!」
「大丈夫かね?」
「あ…、はい…、すみませんでした」

わたしが自分の足でしっかりと立てることを確認するまで肩に手を添えてくれていた近藤さまの後ろから少しだけ目を見開いてこちらを見ていた人影に気がつく。

「としくっ…!…んじゃなくて土方先生!」

危うくメールでの呼び方で言いそうになって焦って言い直すけれど、すぐ隣にいた近藤さまには聞こえてしまったようで、

「苗字さんもトシと呼ぶようになったのか〜」

と大きな笑顔で朗らかに笑う。

「い、いえあの…」

ヤバ…。もぉばかわたし…。
どうしよとしくん。バレちゃうかも!

そんなわたしの不安な視線を感じたのか、としくんはうん、と視線だけで頷く仕草をしたけれど…。



それってどういう意味?


近藤さまに支えられながらも首を傾げていると、
「トシからいろいろ聞いているよ」

すぐ間近から穏やかな声で言われ、背中をやさしくポンポンとされる。

「!?」

近藤さまの顔を見上げれば、やっぱりそこには朗らかで、安心しなさいって言われているような気にさせられる笑顔があって…、

としくんの方を見れば、いつものまゆを少しだけ下げた困ったような微笑みでわたしたちを見ていた。






いつものようにカウンターに座った近藤さまととしくんにブラックのコーヒーを差し出す。


「今日はお二人でどこかへお出かけだったんですか?」


お盆を持ったまま訪ねると、コーヒーカップを持った状態で近藤さまがそうそう!と話し出す。


「そうだ、苗字さん、トシから聞いたが、苗字さんがトシの受け持つクラスの平助君のお母さんだったとはねぇ〜!いや〜、世間は狭いというかなんというか…。」
そう言ってカップに口を付ける。

「言われてみれば成る程そっくりで驚いたよ!それからと言うもの、ブログの苗字さんの顔写真がなんだか平助君に見えてきたりしてね…」


頭の後ろをポリポリポリポリかきながら困った表情で笑う近藤さま。


「そんなに似てますか…?」

アハハとわたしも頭の後ろをポリポリポリポリ。


「あぁ、そっくりだとも!先程も俺たち二人でバスケ部の試合を見てきたんだがね、」

「えっ!行ってこられたんですか!?」

「あぁ!平助君の活躍ぶり、実にすばらしかったよ!大柄の選手の間を素早い動きで抜いてはゴールを決めて!彼ならすぐにレギュラー入り間違いないだろう!」


近藤さまの話を聞いてるだけで、平助がイキイキとコートの中を駆け巡る様子が目の前に再現されるようで嬉しくてたまらない。


「彼ならバスケットだけじゃなく、サッカー部でもいけそうだな」

実にすばらしい人材だよ!とウンウンと頷きながらコーヒーを飲む近藤さまの笑顔に嬉しくなって、気が付いたらつい平助の子供の頃の話をしていた。


「平助はどんなスポーツでも、なんでも上手にこなしてしまう子なんです!小さい頃から近所の子達といっつも外で遊んでて…、その中でも平助がいっちばん目立ってて…。スポーツならなんでも得意だったんですけど、一番好きなのはやっぱりバスケットだったみたいで。小学校のバスケ部でも、ずっとレギュラーだったんですよ!毎日部活から帰ってきてからもおじいちゃんに買ってもらったボールで練習したりして…。寝るときも未だにボールを離さないんですよ?」


ぺらぺら喋って一人でクスクス笑って…。
あ、と気が付いて二人の顔をみれば、近藤さまもとしくんもにこにこ顔でわたしの話を聞いてくれていて、なんだか少し恥ずかしくなってしまった。


「あ…、すいません。なんかわたしばっかり喋ってしまって…」

「いやいや、いいんだよ。苗字さんの話す姿を見ていると、本当にいいお母さんなんだと感心してしまうよ。平助君の素直さは苗字さんの愛情あってこそ!なんだな。なぁトシ?」


近藤さまに話を振られて持っていたカップをソーサーにカタリと置くと、


「あぁ、そうだな」


とフッと優しい眼差しでわたしを見上げるとしくん。

そんな彼の横顔を見ていた近藤さまは
はははと笑い、


「ここにも苗字さんの愛情を受けて変わった奴がいたな」

ととしくんの背中を大きな掌でバンッと叩く。


「えっ!?」
「いっ!!」


思わず熱を持った顔をお盆で隠すわたしと、「って〜な!近藤さん!!」と鬼のように怒鳴り散らすとしくんに、はははははと朗らかに笑うだけの近藤さまでありました。
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