平助の母親
□48.
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原田さんもお弁当をつつくお箸を止めて山南部長の表情を伺っているみたい。
わたしもゴクリと息を飲んで山南部長の動きを見守る。
「実はですね、先ほどメーカーからの連絡がありましてね…、」
………。
…………。
……………。
また溜め!?
しかも今度は少し俯いて人差し指で眼鏡の真ん中をくいっと上げる仕草付き!?
ドキドキして次の言葉を待ってると
「あなたたちお二人がメーカー販売部門の顧客満足向上賞を受賞致しましたぁ!」
ぱぁっと両手を高く広げて、紙吹雪でも舞ってるんじゃないかと錯覚を起こしてしまいそうな突然の明るさに、わたしも原田さんも目を見開いて固まってしまう。
「……?嬉しくないのですか?」
そんなわたしたちを見て、上げていた両手を胸の前で組んで首を左右にわたしと原田さんの顔を見ている。
「や…、ちょっと驚いちまって…」
「わ、わたしもです…。ていうか、わたし、まだこちらに入社してまだ3ヶ月にもならないんですよ?それなのに、そんな受賞なんて…」
一体どんな基準なんですか!?と言おうとすれば、
「そこなんです!あなたはたった数十日の間で多くの顧客ファンを獲てしまった。それがメーカー本部の間で話題になっているそうで、是非あなたの接客にあたっての心構えを受賞の場で発表してほしいとのことなのです!」
「ええぇっ!!?」
「すげぇじゃねぇかぁ!やっぱみんな思うところは同じだな〜!」
「あなたのブログの人気も相当のものですからねぇ」
驚くわたしに原田さんも山南部長もにこにこ顔で褒め称えてくれる。
誉められることなんて全然慣れてないから、どういう反応をしていいのか困ってしまう。
それに発表だなんて…。
「わ、…わたし、そんな人前で発表するような事なんて…、ム、無理ですっ!」
両手を膝の上にのせて肩をすくめて俯いて言えば、
「無理じゃありません!」
突然厳しい口調になった山南部長にビックリ!
「これは誠自動車にとって、とても名誉な事なんですよ?あなたにやってもらわなければ困るのです」
さっきまでの優しい空気はどこにもなくて、山南部長がどれ程この誠自動車の事を大切に思っているかが伝わってくる。
するとわたしの目の前の机を指先でとんとんと叩く音に目を向けると、
「……、俺も一緒に行くんだ。大丈夫」
静かな、優しい声で言う原田さんにごくりと息を飲み込み頷く。
「わ、わかりました。わたし、やってみます」
うんうんと頷く山南部長はもういつもの優しい微笑みで、
やっぱりちょっとこわいなと思っちゃったけど、
会社の事を何よりも大切に思っている、
会社のために尽くしているからこそなんだな…
と思った。
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