平助の母親
□47.
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しっかり夕飯をご相伴にあずかった僕達。
今は一くんの手当の仕上げを待つばかり。
「今日はこれでしっかり固定するからはずしちゃダメだからね?お風呂もなるべくシャワーで済ませて暖めないようにね?」
薄手のタオルを巻いて、その上からしっかりと包帯で固定された腕を一くんの胸に押し付けるようにポンポンとたたく。
「ありがとう…ございます…」
俯きかげんに答える一くんに、
「ほんとに大丈夫かなぁ」
と全然一くんの大丈夫を信用していない名前ちゃん。
「名前ちゃん、一くんの事は僕が責任もってお世話するから安心して?こう見えても僕、面倒見いいほうだから」
にこっと笑って一くんの肩に手をのせて言えば名前ちゃんもにっこり微笑んで、
「そうだね!それなら安心かも。困ったときに助けてくれるお友達がいるって心強いね!」
そう言って僕と一くんに笑みを向ける。
「い、いや、俺は一人で大丈夫だ。総司の手伝いなどいらん。」
「え〜?身の回りのお世話とか、甲斐甲斐しく尽くすよ?やってって言われた事でも言われてないことでも!」
「だからそういうのが要らぬと言っているのだ!」
「うるせぇぞお前ら!ガチャガチャ言ってねぇで、ちゃっちゃと帰るぞ!」
あー、うるさいな。
土方さん、すぐ怒鳴るんだから。
自分が一番うるさいって気が付かないかな?
「はいはい。それじゃ、名前ちゃん、おいしいお好み焼き、ごちそうさまでした。一くんの事はほんとに僕が責任もってお世話するから安心してね。」
「いや、だから総司…」
「だってそのケガ、僕のせいなんでしょ?責任くらい取らせてほしいな?せめて痛みが軽くなるまでね。教採試験までに治ってなかったら僕、一くんの人生に負い目感じて生きていかなきゃならないからね」
しっかり治そうね!
そう言ってにっこり微笑めば、一くんは黙って納得してくれるんだ。
僕の笑顔にはみんなが納得してくれる魔法の力があるみたいで、取り合えず笑っておけばいつだって僕の思いのまま。
「きょうさいしけん?」
僕の台詞の中で聞いたことのなかった言葉があったのか、首を傾げて僕を見上げる名前ちゃん。
か…、
かわいすぎるでしょ…。
こんなにかわいいのにあんな子のお母さんだなんてどうしても納得いかないんだけど。
「きょうさいしけんって言うのはね、教員採用試験の略だよ」
にっこり微笑んで教えてあげると名前ちゃんは目を丸くして
「一くん、先生になるんだ!」
と両手を顔の横で合わせて目を輝かせる。
「そっかぁ、じゃあしっかり治して試験に挑まないとね!試験っていつなの?」
「…7月の第一日曜です」
「あと1ヶ月くらいなんだ…。」
指を組み合わせた両手を顎のしたにあてて、俯きかげんに呟くとパッと顔をあげて僕の右手をぎゅっと握りしめる。
「!」
「沖田くん!一くんのお世話、しっかりしてあげてね!」
いきなり名前ちゃんに手を握りしめられて一瞬呆気に取られちゃったけど、僕も一くんの肩に置いていた手を名前ちゃんの手にかぶせて僕達は両手と両手で繋がりあう。
「任せて名前ちゃん!僕は名前ちゃんが喜んでくれるならなんだってするからね!」
すっかり僕を頼りにして僕を見つめるかわいい名前ちゃんと、そんな名前ちゃんをいつまでもみつめていたい僕。
なのにやっぱりこの人は邪魔してくるんだよね。
もうお約束というかテッパンというか天丼というか…。
「総司!いい加減車に乗りやがれ!」
ガレージからご丁寧に家の前の道路に車を出して後部座席のドアを開けて怒鳴っている土方さん。
ご近所迷惑とか考えないのかな、恥ずかしいなぁ!
一くんはちゃっかりもう車に乗りこんじゃってるしさ。
「はぁ…、じゃあ、土方さんがご近所迷惑になると名前ちゃんにも迷惑になるから行くね?」
名前ちゃんの頭をポンポンとしてお別れの挨拶をすると一層大きな声で僕の名前を叫ぶうるさい鬼。
これから土方鬼三って呼ぼうかな。
「あ〜もぉはいはい。行きますよ」
土方さんが仁王立ちして眼光を光らせている前を通って車に乗り込むと間髪いれずに勢いよく閉められるドア。
もぉ、僕までケガしちゃったらどうするのさ。
あぁ、そうなったら土方さん悪者扱いして心行くまで名前ちゃんに介抱してもらえばいっか!
なんて考えてると、車の外では土方さんと名前ちゃんが向かい合って話している。
外の音が聞こえないから二人が何を喋っているのかわからないけど、
なんだか二人の向き合う距離の近さに何か違和感のような不自然さを覚える。
土方さんってあんなにパーソナルスペース狭かったっけ?しかも女の人に対しては特に。
それにあの土方さんの横顔…。
「ねぇ一くん…」
「……あぁ」
一くんも僕が何を見て何を言いたいのかわかっているみたいで視線だけを窓の外に見える二人に向ける。
「土方先生のあのような表情…。月日というものはこうも人を変えてしまうものなのだな…」
さも自分は正解を言った!
とばかりに目を閉じうむ。と頷く一くん。
うん、違うから。
しかもうむ。って何時代の人なのさ。
一くん、土方さんのこと本当にちゃんと見てるのかなぁ?
尊敬しすぎて見えないとこのが多いんじゃないかな。
土方さんが今まで見たこともないような、
まるで土方さんじゃないような優しい眼差しを向けられた名前ちゃんも、とても可愛らしい表情で土方さんを見上げて微笑む。
それは僕でさえ割り込むことができないような、
むしろ二人の醸し出す雰囲気にいつまでも見とれてしまうような感覚に陥ってしまう…。
名前ちゃんの相手が僕じゃないのが悔しいけれど、
名前ちゃんをあんなに可愛らしい表情にさせるのは、きっとあの土方さんの優しい眼差しでしかできない事なんだ……。
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