平助の母親
□46.
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☆★お手当てしまーす!★☆
俺が勝手にリビングに上がり込んでいくと、斎藤はソファーに座らされ、その前には名前が膝まづいて斎藤の手当てにあたっていた。
「…随分手際がいいんだな」
俺が車を停めている、たかだか数分の間に名前の周りには手当てに必要な物だけが用意されていた。
ゆっくりと名前の横まで歩みより隣にしゃがみこむ。
「大丈夫?冷たいよね?痛む?」
名前は斎藤の手首に布に包んだコールドパックを巻き付け両手で押さえるように包みこみ、心配げに眉を下げて斎藤の顔を見上げる。
「っ!……い、いえ、平気…です」
とっさに名前から慌てて顔を逸らす斎藤。
………。
じっと斎藤の手を押さえている名前と落ち着かない様子の斎藤。
「名前ちゃん、いつまで一くんについてるの?もう大丈夫でしょ?冷やしとけばすぐ治るよ」
俺の反対側からドサッと斎藤の横に座る総司。
「総司…、お前…」
総司の顔を睨み上げれば、
「あれ?土方さん、黙って人の家に上がってきちゃダメじゃない。ちゃんとあいさつしなくっちゃ」
ね?名前ちゃん、
なんて言いながら、前屈みになって名前の顔に近付く。
そんな総司の言葉に目を細めて笑みを作るだけで名前の視線は斎藤の手に向けたまま。
「ちょっと冷たいけど、しっかり冷やさなきゃいけないから…、30分はこのまま冷やしておいてね。でも冷たいの我慢してちゃダメだよ?凍傷おこしちゃうから。あとは…、しっかり押さえて心臓より高い位置で動かさないようにしててね。」
そういうとコールドパックの上からマジックテープのついたテーピングでぐるぐると固定する。
「冷たすぎたら自分で位置をずらしたりして様子を見てね」
ずっと押さえ込んでいたせいで真っ赤に冷えた名前の指が目につく。
「おい、お前の手が霜焼け起こしそうじゃねぇか」
立ち上がる名前の赤くなった指先がちょうど俺の目の前にあるから、ついその手をつかんで俺も立ち上がり、両手で暖めるように包み込む。
「えっ!?」
「あぁっ!?」
「っ!?」
目の前の総司と、ダイニングテーブルの横に立つ平助と千鶴が声をあげ、俺もハッとして名前の手を離す。
「す……、すまねぇっ!」
「い、いえ…、あ、あの…!それより今日は平助と千鶴ちゃんを送ってくださって、ありがとうございました!」
「まさかあんなところで平助たちが飛び出してくるなんて、ビックリしちゃいました」
言いながらキッチンに入って行き、夕飯の準備に取りかかるのか手を洗いこちらに笑みを向ける。
「それに沖田くんまで飛び出してくるんだもん。みんな知り合いだったんだね?」
にこにこ笑って平助に問いかける。
「だから知り合いなんかじゃねぇよ!」
平助の叫びにジロリと総司の鋭い殺気の籠った視線が飛ぶ。
「っ…!?」
完全に総司の殺気に動けなくなる平助。
そんな平助をみかねて代わりに答えてやる。
「いや、こいつら俺の教え子で、偶々今日は学校に遊びに来てたんだ」
「へぇえ〜!土方先生の生徒さんだったんだ!」
驚き微笑む名前の視線が総司に向けられ、総司のヤツ、一気にテンションが跳ね上がるかのように大きな体をソファーの背もたれに預けて得意気に両手を頭の後ろに組む。
「そうなんだよね…。期待に胸踊らせた中学最初の先生がこの土方さんだったって訳…。あの頃は毎日眉間にシワ寄せてたよね〜、って、あ、今もか」
総司の野郎…、調子に乗りやがって…。
オレだって教師になって最初に受け持った生徒にテメーみたいなやつがいて、どんだけ迷惑被ったか!
「………。それよりお前の方こそコイツらと知り合いだったのか?」
総司とは互いに名前を知っているようだったし…。
「あ、はい…。沖田くんとは朝の通勤でいっしょになるので…。そっちの…、一くん…?は電車から降りるときによくすれ違うので顔は知ってるって感じで…。沖田くんとお友達だったんだね?」
にこっと、俺がショールームで初めて向けられたあの眩しいほど、見惚れるくらいの笑顔を斎藤に向ける。
「っ!…、は、はい…」
あの時の俺と同様、銃で撃ち抜かれたように一瞬目を見開き、顔を赤らめ俯き視線を逸らす。
こいつもやられちまったか…?
「ちょっと…。なんで僕は沖田くんで一くんは一くんな訳?」
ソファーから立ち上がり大股でキッチンの前まで進み出て不満そうな顔つきで名前に顔を近付ける総司。
「ぅえぇ!?だって…、沖田くんがそう呼んでたから…」
「じゃー僕のことも総司って呼んで?みんなそう呼んでるから」
にこっと首を傾げてねだる総司。
こいつの名前への執心ぶりから、ただならぬ不安が胸中を渦巻く。
厄介なやつに目をつけられちまったもんだ。
これ以上ここで総司と一緒にいると何か良くないことになりそうだ。