平助の母親
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「へぇ〜、結構活気あるじゃないですか」
総司が何処と無く何かを小馬鹿にしたような口調で言う。
「俺たちも…、ここで三年間土方先生のご指導のもと、彼らのように汗を流していたのが懐かしいです」
斎藤は感慨深そうに目を細めて何かを思い出すように呟く。
「そうだな…。俺も教師になってもう十年経つのか。早ぇもんだな…」
俺も今の斎藤のように教師になることに希望を抱いていた頃を思い出す。
十年か…。
十年前の名前はもう平助を生んで母親として過ごしていたんだな。
平助は幼稚園児か…。
ガキんちょとして一番手の焼ける時期か…。
やんちゃな平助を追い回す名前が目に浮かぶぜ。
見たことのない、これからも見ることのない過去の名前を思い、思わず笑みが浮かぶ。
そんな俺の小さな変化に目敏く気付く総司がまた俺の勘に障ることを言いやがる。
「ぃやだなぁ、土方さん。男子生徒の練習風景見てニヤけるなんて…。気持ち悪いですよ」
「……………………」
グッとガマンだ。
そこにマネージャーの千鶴が部員たちに配るドリンクの入ったウォータージャグを重そうに持って道場に入ってきて、俺を見つけると「お疲れさまです!」と頭を下げる。
「おつかれ、ごくろうさん」
返事をすると、
「へぇ〜、あのこがマネージャー?」
とニヤけた総司がじろじろと千鶴を見回す。
そんな総司の視線に困ったように視線をさ迷わせ慌ててドリンクを所定の位置に置きに行く。
「総司…。厭らしい目でじろじろ見るんじゃねぇ!」
ジロッと横目で睨んで言えば、
「土方さんほど厭らしくありませんよ」
にへらっとふざけた顔して言いやがる。
……………。
イチイチ勘に障るやつだぜ。
斎藤一人だけで来ればいいものを…。
こいつら昔っからつるんで…、
いや、総司が斎藤に付きまとっているんだな。
こんなやつに付きまとわれるなんて、俺には耐えられねぇな。
斎藤はよく耐えれるもんだぜ。
この試練に耐えれる位だ。人生何があっても屁でもねぇだろうな。
斎藤に向かい真面目な顔で言ってやる。
「お前ならなんだってできるさ」
突然真顔の俺に言われた斎藤は、一瞬目を丸くしたが、じわじわと頬を赤らめ、耳まで赤くして
「は、はい…。有り難きお言葉…」
とうつむいた。