平助の母親
□42.
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☆★お互いを知っていく歩み寄り★☆
私たちが車の影で一悶着しているうちに、いつの間にか焚き火の火も消され、誠自動車の皆さんの姿はなく、辺りはすっかり暗闇に包まれ静まり返っていた。
土方先生に手を引かれたどり着いた場所は、お昼に寝そべっていたら怒られたあの平たい岩の上。
そこに二人で並んで座り、お互いの肩にもたれ掛かる。
「…寒くないか?」
小さな声で気遣ってくれる先生の声。
「わたしは大丈夫です。先生も…、はい」
さっき原田さんが持ってきてくれたブランケットを膝にかけて、先生の膝にも掛ける。
「あったかいですか?」
先生の顔を覗き込んで訊ねれば、フッと微笑んで私にキスをする。
「お前がいればあったかいよ」
……………、
先生って、
わたしが思うよりずっと………、
なんていうか、
…よくいえばロマンチスト?
かぁっと頬が熱くなる感覚にパッと先生から顔をそらすと肩を抱き寄せられ、わたしの頬が先生の胸に密着する。
とくん、とくんと聞こえる先生の胸の鼓動に、気持ちが安らいでいく。
「……あったかい…」
無意識に呟いて自然に目を閉じてしまう。
「おい、寝るなよ?こんなとこで朝を迎えたらおまえの職場の連中が大騒ぎになっちまう…」
そう言いながらも、わたしの髪を優しく撫でる。
「……。さっきの話の続きだが…、
どうして急に俺に嫌われたら…なんて言い出したのか、教えてくれないか?」
優しく撫で続けながら、静かな優しい声で先生が呟く。
そんなふうに優しく言われちゃったら答えない分けにいかない…。
「あ…、あれは…、その…。
先生がため息ついて呆れてたから…」
「は?」
「そ、その…、だって先生、きっとわたしの事、隙が多いとか頼りないって思ってるんでしょ?だから、ため息ついたりして…」
うぅぅ…、
言ってて段々情けなくなってきた…。
先生の顔なんて、もう恐れ多すぎてみることもできない!
「……はぁ〜〜〜っ…!」
するととんでもなく大きなため息が降ってきて頭の上にずしっと何かが乗せられる。
「俺のため息なんか、日常茶飯事じゃねぇか…」
先生は両手でわたしを抱え込み、わたしの頭の上に頬をのせて話し出す。
「確かにお前は隙が多い。頼りないかどうかは別として男が寄ってきやすいのかも知れねぇな…。
だが、俺がため息ついて呆れたのはお前に対してじゃねぇよ…。
お前に触る連中に対してのため息だ。」
わかったか!
そう言ってわたしの頭に額をグリグリ擦り付けてくる先生。
「わ、わかりました!わかりましたぁ〜!」
わたしが返事をすると「よろしい」と言ってわたしの頭に顎を乗せる。
「よし…、俺の疑問に答えた代わりに俺の事も一つ教えてやる」
「?」
顎を乗せたままの状態で、わたしの顔の前にケータイのディスプレイを表示させる。
「今何時何分だ?」
「え?…あ、23時58分…?」
「ふっ…、なんで疑問系だよ。…今日は五月三日。あと24時間と2分で俺の誕生日だ。」
メモしとけ。とケータイをしまう。
「こうやってお互いのことなんでも話し合っておまえのことなら知らねぇことなんてなんもねぇ位になりてぇんだ」
ケータイをしまうとわたしを両足の間に移動させ、後ろから包み込まれるように抱き締められる。
「おまえのことも知っていきたいし、俺のことも知ってもらいたい。」
…だから、
「もうひとりで泣いたりすんじゃねぇ…」
切なく掠れた声で、そして優しく触れる口づけに、
もう泣くんじゃねぇなんて言われたそばから、わたしの頬をまた涙が伝ってしまった…。