平助の母親
□41.
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☆★お前の総てを抱きしめるから…★☆
原田さんがテントへと入っていくのを見送り、さっき原田さんが視線を向けていた暗闇へ顔を向けると、暗闇に紛れていた人影が焚き火の灯りが届く距離まで歩み寄っていて、その存在が誰なのか気付くと、思わず振り返って見ていた顔をパッと元に戻して抱えた膝に視線を落としてしまった。
うわ……。
ちょっと!わたしあからさますぎ…!
思わず反射的にしてしまったとはいえ、
これはちょっとさすがに大人げなかったと焦ってしまう。
そうこうしているうちに、私の視界の片隅にジャリっと河原の小石を踏むエンジニアブーツの先が入る。
ど…、どうしよう…。
でもこのまま顔あげずにいる方がおかしいし………。
落ち着け、大丈夫。なんともない!
そう自分に言い聞かせて顔をあげようとすると、
ポンっと頭を撫でる大きな手。
「…………。」
頭に手を置かれたことで顔をあげることができず、私の目はパチパチと燃える炎しか映さない。
「…………。」
お互い話すことばが見つからなくて無言の時が流れる。
「………、さっきは…」
私の頭から手を離してしゃがみこんだ土方先生がぽつりと呟くから、私も慌てて先生の顔を見上げる。
「あのっ!…ごめんなさい!」
いきなり謝りだした私に、先生は目を丸くして驚く。
「わ、わたし…、すごく大人げない事しちゃって…、近藤さまにも…、」
「いや、それは気にしなくていい。次に会うときにおまえの笑った顔が見れればあの人はそれで満足するから。…それより」
土方先生の紫紺の瞳が少し不安げに細められ、わたしの顔を窺うように覗き込む。
「…っ!」
こんな…、
先生にこんなに不安な…、悲しげな顔を…、
わたしがさせてしまっているんだ…。
「ご、ごめんなさい!なんでもないんです!」
そう思うと先生が言葉を続ける前に勢いをつけて立ち上がり、原田さんの車へと走った。
「お、おいっ…」
駆け出した私に驚きながらも、先生は私の後を追ってきて、
焦りのあまりうまくスライドドアを開けられないわたしを背後から両手で閉じ込めてしまう。
「…っ、なんで逃げんだよ…」
取っ手に手をかけたまま、身動きすらとれず目の前にあるドアの窓ガラスを見ることしかできない。
そんなわたしの頭にコツンと固い何かがあてられる感覚。
「俺が…」
頭のすぐ後ろから聞こえる先生の声で、頭にあたっているものが先生の額だと気付く。
動けないわたしに土方先生はそのままの姿勢で言葉を紡ぐ。
「俺がお前にあんな顔させちまったんだろ…?」
っ!?
「違っ…!」
先生の声があまりにも切なくて、胸がギュッと苦しくなる…。
違う!違うのに…!
感情をうまく言葉で表現できなくて胸が詰まったように苦しくてたまらない。
「教えてくれ…。俺は…」
「ち、違うんですっ!……、わたしが勝手に……、」
勝手に…、
好きになりすぎて、
だけど…
失ったときの寂しさを思うと……
もう、
二度とそんな思い
したくないから………。