始まりは視聴覚室

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小テストを回収すると「次の単元に進む」と言って、前回の授業と同じように部屋の電気を消して電動カーテンを閉める土方先生。

そして黒板の前に降ろされたスクリーンに映し出される映像…。
前回と同じ、えんじ色のダボっとワンピのふくよかなおばちゃん。


前回の授業と同じとか言ったけど…、
今回は土方先生、教科書の朗読すらしてない。
おばちゃんが朗読始めちゃったよ。


このままずっとずーっとずぅ〜っとこんな授業が続くのかなぁ…。
そんな事を思いつつスクリーンに映し出される大きなおばちゃんの動きを目で追い穏やかな声に耳を傾ける。


朗読が終わると丁寧な解説が始まる。
その頃になるとそかしこから小さな寝息が聞こえてきたり、ゆらゆらかっくん頭を揺らして夢の淵に立つ生徒がポツポツ出現する。
教科書を見ているような姿勢でじっと動かない生徒も確実に寝てる。


ここで、
今この解説の時間で寝ちゃった子たちは、きっと次のテストで答えることができない。


寝たら負け。


きっと土方先生は寝ずに真剣にこのおばちゃんの授業を受けてる奴とそうじゃない奴を見定めるためにテストで確認してるんだ!
なんて卑劣なんだ…!


そう思って薄暗がりの向こうにいるはずの土方先生にしかめっ面を向けてギリィってなってる私の横で、突然バサバサっと大きな音を立てて教科書やペンケースが落下する。



「っっ!!?」



心臓が飛び出しそうなくらいびっくりして目を向けると、机の上に滑り込むような姿勢で突っ伏している千鶴ちゃんの背中…。

その音に何人かが目覚めてムクッと起き上がる人の影がちらほら…。

だけどそのまま進むおばちゃんの授業。



「ち、千鶴ちゃん、起きて!寝たらダメだよ!」



手を伸ばし通路を挟んで離れた席に座る千鶴ちゃんの肩を揺すり、潜めた声で呼び掛けるも目覚める兆しはまるでない。


居眠りする生徒を注意することもなく静かな授業が進み、やがておばちゃんが「それではこれで、御機嫌よう」と笑顔で会釈するとスクリーンが青一色に染まる。

同時に点灯する視聴覚室の蛍光灯と電動カーテンが開いた窓から差し込む光に瞼が痛い!



「次回またテストするからな。しっかり復習しとけ。じゃ、解散」



まだチャイム鳴ってないのに、
まだDVD終わったことすら知らずに寝てる生徒もいるのに、
前回の授業と同じように「解散」って言葉だけを残してスタスタと教卓の向こう側を通って扉へ向かう土方先生。
そして伸ばした手が扉に触れると同時に鳴り響く終了チャイム…。



どんだけ正確なんだ土方先生!



そんな正確さなんていらないから、
ちゃんとした授業してよぉおー!
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