始まりは視聴覚室
□3.
1ページ/2ページ
☆★沖田総司って…!★☆
「おー、千鶴〜!」
千鶴ちゃんと二人、視聴覚室から教室に戻る途中、三年生の教室の中から千鶴ちゃんを呼ぶ声に二人で足を止める。
「平助君!」
千鶴ちゃんが嬉しそうな声で返事をすると、教室の中からこれまた嬉しそうに白い歯を並べた満面の笑みの男子生徒が駆け寄って来ていた。
「なになに〜!どうした?オレになんか用か?」
「え…?」
突然、通りかかった私たちを呼び止めたのに「なんか用か?」ってどういうことだろうと一瞬固まる私をよそに、千鶴ちゃんはほわほわとした柔らかい笑顔のままクスクスと肩を揺らす。
「ふふふ、別に何もないよ?さっきの授業で視聴覚室に行ってた帰り。」
可愛らしく笑いながら答える千鶴ちゃんを前に、この三年生の先輩は顔を真っ赤にして照れ隠しなのかやたら大きな声で「あぁあー、そっかそっかぁ〜!」と頭の後ろをかきむしる。
「んーじゃぁ毎週この時間ここ通るんだ!」
「うん、そうだね」
「そっか〜!そっかそっか〜!」
にこにこと相槌を打つ千鶴ちゃんにテレテレな先輩。
なんだ、付き合ってるのか?
二人の様子を一歩下がったところで見ていると、突然グイッと肩を掴まれ軽く突き飛ばされる。
「邪魔」
「っ!?」
突然の事に声も出せず目を瞠ると背の高い男子生徒が教室の入り口に立つ千鶴ちゃんとテレテレ先輩の横を通り抜けようとする。
「総司!お前今頃かよ!遅刻じゃん遅刻〜!」
テレ先輩が大きな人を見上げてからかうように言うと、総司と呼ばれた長身男子はチラリと視線だけで千鶴ちゃんと先輩を見下ろして、ふっと目を細める。
「なんだ、いたの。小さすぎて視界に入ってなかったよ」
「っ!?な…!!」
「総司てめえ一番言ってはならねぇ事をぉ!」と逆毛を立てて顔を真っ赤に騒ぐテレ先輩を気にも止めず、長身男子は体ごと向きを変えて扉の枠に手をかける。
ここから見ると千鶴ちゃんに覆い被ってしまうんじゃないかと思うほど。
「やぁ千鶴ちゃん。こんなとこでどうしたの?」
一瞬、ジッと冷たい目を私に向けたかと思うと次の瞬間にはニコッと効果音が聞こえそうなほどの切り替えたような笑顔で千鶴ちゃんを見下ろす。
「っ……、」
な…、何?
今絶対私のこと睨んだし…。なんで…?
わけもわからないままなんとなくイラっとした私はそこから動くこともできないままグッと古文の教材を腕に抱きかかえたまま目を見開いて固まる。
私が睨まれた事なんて気付かない千鶴ちゃんはさっきと同じように視聴覚室からの帰りだと説明すると、長身男子は「ふぅん?」と今度こそ私に視線を向ける。その視線に気付いた千鶴ちゃんは一歩下がる。
「あ、この子はなまえちゃんです。同じクラスで…」
いきなり紹介されさらに驚いていると一生懸命話している千鶴ちゃんの声に被せ気味に「別に聞いてないけど?」とにっこり微笑む。
「え…、あ…」
「どうでもいいけど千鶴ちゃんも平助君も小さいんだからこんなとこにいたら危ないよ?そっちの人も…、用がないなら早く行きなよ。邪魔くさいし」
最後の部分、すっごく冷たく低い声で吐き捨てるように言うとスッと教室の奥へと姿を消した。
な…、なんなの……っ!
失礼なやつ!失礼なヤツーっ!!