始まりは視聴覚室
□2.
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な…、
なんだったんだ、今の授業は…。
ぽかんとする私の周りでも同じようにざわついたり戸惑う生徒がほとんどで、みんな教室に戻ってもいいものなのかどうかと挙動不審にキョロキョロと周りを見回す。
私も呆気にとられた顔でいると通路を挟んで隣に座った女の子とパチリと目が合う。
「……。」
「…………、」
「……あ、あはは。なんか、あれだね …」
お互い引き攣った顔で目があったまま間が開いてしまったけど、なんとなく声をかけると、女の子も微妙な笑顔を作り相槌を打ってくれる。
「う、うん…。なんか…ね。あは…」
「…………、」
「…………。」
ざわつく視聴覚室から徐々に生徒たちがゆっくりと退室して行く中、少しの沈黙の後もう一度二人視線を見合わせて苦笑い。
「……、いこっか…?」
「…う、うん」
そうしてまだお互い名前も知らない私たちは同じ教室へと戻って行った。
彼女の名前は雪村千鶴ちゃんという。
大きく丸い瞳とポニーテールがトレードマーク。
去年は違うクラスだったし、進級して同じクラスになったとはいえ、席が遠く離れていたのでお互い話したのは今日が初めて。
私もそうだけど、彼女も積極的に声をかけて友達を作っていくようなタイプじゃないみたい。
土方先生の授業のおかげで私たちは今こうして新しい友達として話すことができた。
何がキッカケで友達ができるかわかったもんじゃないけれど、たまたま隣に座ってた子が千鶴ちゃんみたいな可愛らしい子でよかった♪と私は密かにラッキー!と思っていた。
「さっきの土方先生の授業…、ね…」
「…う、うん…。すごかったね…」
廊下を歩きながらお互いの共通の話題となるさっきの授業について話そうとするけれど、出てくる言葉が見つからない。
すごかったのかなんなのか…。
千鶴ちゃんの言う「すごかった」の意味がどうかは別として、
だけどそう言うしかない気持ちもよくわかる。
「土方先生さ、しっかり復習しとけって言ってたけど、それって…」
「あのDVDの女の人の、解説…ってこと、かな…」
途切れ途切れに言う千鶴ちゃんは眉をハの字に下げて曖昧に苦笑い。
そりゃそうだ。
だって復習って言ったって、土方先生自身がなにしたかって言えば、教科書の朗読とDVD再生だけだもん。
授業をしてくれたのはDVDに出演していたえんじ色のだぼっとしたひらひらワンピースに大粒のパールのネックレスが印象的なぽちゃっとしたおばちゃんだ。
今日私たちに古文の授業をしてくれたのは間違いなく土方先生ではない。DVDのおばちゃんなんだ。
「まさかとは思うけど、この先ずっとあのおばちゃんのDVD、なのかな…?」
引き攣った苦笑いの私と同じように千鶴ちゃんも同じような笑顔を向ける。
「………、それは…、ないんじゃない…かな…」
さっきと同じように途切れ途切れの答え方。
誰にも断言できない質問をした私も同じことを聞かれたらきっと同じ答え方をすると思う。
けど…。
もし次の授業もあのDVDのおばちゃんだったら…。
別に土方先生が教科担任じゃなくてもいいんじゃないかな…。
って
思う。
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