始まりは視聴覚室

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☆★美形教師、土方先生の初授業★☆QLOOKアクセス解析




「出席者は以上だな。じゃ、早速授業を始める。」



広い視聴覚室の隅まで土方先生のよく通る澄んだ声が響き渡る。
古文の授業を選択した生徒の約八割を占める女子たちは、その圧倒的な美貌から放たれる凛とした美しいオーラに釘付けで、ぽわ〜っと春めいた柔らかな空気が教室内に充満する。

教科担任が土方先生だとわかった時のようなキャーキャーフィーバーは今はない。
みんな土方先生がどんな人なのか、今の時点ではわからないので下手に騒いだりはしないのだ。
だけど、出席を取るなり自己紹介もなくいきなりピシッと綺麗に背筋を伸ばし「授業を始める」とか言うような先生は大抵厳しそうだということが予測される。

幻の美形教師、土方先生にどれくらいのユーモアがあってどの程度の授業態度のユルさを許容してくれるのか…。

その見当が付くまでは騒がないでおいた方がいいと本能が悟っているのか、はたまた単にその麗しい立ち姿に見惚れて放心状態に陥っているだけなのか。



そんな事をチラチラ思いながらも教科書に目を落として朗読を始める土方先生の声に耳を傾ける。

やがてキリのいいところまで読み終わると教科書を教卓の上に置いた土方先生は、視聴覚室のリモコンを操作して遮光カーテンを引き、蛍光灯の明かりもパッパと消して行く。



「今から解説用の映像流すからしっかり見とけ」



突然のことにざわつき始めた生徒に向かって一言言うと、そこだけほのかに照らされる卓上ライトのついた操作盤の机の向こうに腰掛け、卓上ライトの明かりを絞り視聴覚室は暗闇に包まれる。

そして映し出された映像はまるで公共放送の教育番組のような、まさに教材映像とも言うべき内容。
さっき土方先生が朗読した、教科書に載っている一番最初の物語を優しそうなふくよかなおばちゃんが柔らかく穏やかな声で解説してくれている。

私たち生徒はただただそのおばちゃんの声を聞き、説明してくれる仕草を目で追い座っているだけ。

土方先生もほのかなほのかな明かりの向こうで腕を組んで椅子に深く腰掛けている様子…。



およそ授業の半分以上の時間を費やしDVDの映像が終わる頃にはほぼ全員が微睡みの中、うつらうつらとしているところに、唐突に蛍光灯の明かりが点き、電動の音と共に遮光カーテンが開き窓からまばゆい日光が視聴覚室内に射し込む。



「今日のところは基本中の基本だからな。しっかり復習しとけよ。じゃ、解散」



まだ寝ぼけまなこで起立もしていない私たちをよそに号令とも取れるような、取れないような声をかけ、それからさっさと扉に向かって歩き出す。
土方先生が扉に手を掛けたと同時になり出す授業終了のチャイムの合図。

土方先生の去った後の視聴覚室には、ポカンと虚をつかれ、今の時間は一体なんだったんだと放心状態の私たちだけが取り残されたのであった…。
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