僕のおねえさん

□83.
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土方さんが、
土方さんが倒れた…!
私のせいだ!

こんな暑い中、ずっと私のこと待ってたんだ…!



昼間、私の前に駆けつけてきた土方さんの額の汗が鮮明に記憶に残っている。

あんなになるまで必死で駆けつけてきてくれたのに…。
きっと私に何か、伝えたい事があったから…。

それなのに!


あの時の私の態度…、あの時の私のせいで、
きっと土方さんは帰らずにいつもの場所で待っててくれたんだ…。



「っ!!」



長時間待っていてくれた土方さんを思うと、自分がいかに、なんて心の狭いちっぽけなヤツなんだって情けなくなる。
情けなくて涙が視界を遮るけれど、走る速度を一層上げて土方さんのマンションを目指して走り続けた。






「土方さんっ!土方さんっ!」



何度インターフォンを鳴らしても一向に反応のない玄関の扉に呼びかける。


どうしよう…。
ここまで来たのに会うこともできないの…?


…さっき近藤さん、『寝かせて来た』って言ってたし…、

切れ切れの息を短く吐きながら扉の前で不安に思っていると、中から何か硬いものが床に落ちた乾いた音がして、それに続くようにドサッと重い音が聞こえた。



「っ!?土方さんっ!土方さんっ!?」



思わずドアの取っ手に手をかけると鍵がかかっていなかったのか突然拓けた視界の先に見えた光景に更に驚く。



「土方さん!」



玄関から続く廊下の先には、土方さんが片膝をついてうずくまり、壁に寄り掛かって苦しそうに額をおさえていた。



「土方さん!大丈夫ですか!?苦しいんですか!?」



滑りこむように土方さんの前に座り込み顔を覗き込むと、浅い息を吐きながら眉間にしわを寄せた瞳が力なく私を見上げる。



「っ…、名前…。…、おまえ、…どうしてここに…」



私の存在に気付いた土方さんの目は相変わらず苦しそうに細められていたけれど、少しだけ和らいだ眉間のシワに…、少し掠れた土方さんの声に、一旦引いたはずの涙がまた堰を外したように浮かび上がり視界がぼやけていく。



「土方さん…ごめんなさい!ごめんなさい…!ごめんなさいっ!」



堪え切れなくなった涙が次々と頬を濡らして、謝って済むことじゃないってわかっているのに、出てくる言葉はそれしかなくて。
頭を下げて言い続けるうちに目頭が重く痛みを伴い両手で顔を覆ってしまう。

こんな、子供みたいに泣いて謝るなんて、みっともなくて本当に自分が情けなくて余計に涙が止まらない。

謝罪以外にもっと他にも何か言わなきゃいけないのに…



「ごめっ…なさっ…、ごめん、な、さっ!?」



嗚咽交じりの言葉は最後まで言うことができなかった。
代わりに聞こえたのは私の耳元で熱い吐息に混じった土方さんの「もういい…」という声。




「もういい。なんでお前が謝ってんだ」



土方さんに抱き寄せられぎゅっと背中と頭を抱え込むように回った両腕が私をきつく閉じ込める。
熱を持った土方さんの首筋が直接私の頬にあたり、ドクドクと早く打つ脈の動きが伝わる。



「謝んなきゃなんねぇのは…、俺のほうだろ…?」



土方さんが話すたびに耳や肩に触れる息が熱くて、力なく私に重心をかける土方さんの様子に、涙が止まる。



「土方さん…、」



呟くと抱きしめる腕の力が緩められ、真正面から見つめ合う形になる。



「名前…、すぐに会いに行かなくて悪かった」



申し訳なさそうに片眉を下げながら微笑む土方さんの表情に、さっき止まったはずの涙がまた浮かび上がって頬を伝う。

涙で濡れた頬を親指で優しく撫でて、大きな掌が私の顔を包み込む。



「土方さ…」
「会いたかった」



見つめていたはずの土方さんの瞳が近づいたかと思うと、呟いた私の言葉に重ねられたのは、信じられないほど何よりも嬉しい土方さんからの言葉と、柔らかく熱い唇の感触。


熱い唇が何度もなんども優しく柔らかく私の唇の形を確かめるように重ねられる。
土方さんの唇で優しく甘噛みするみたいに…、
そんな風に繰り返されるうちにすごく気持ちが落ち着いてきて、いつの間にか私も同じように土方さんの唇を求めてて…。しっとりと濡れたお互いの唇が甘くて愛おしい。

もっと近くに寄り添いたくて、自分の胸の前でおさえてた手が自然に土方さんに抱きつくように背中へと伸びていく。
私の寄り添いたいという気持ちが伝わったのか、土方さんも同じように頬に添えていた手をもう一度私の背中と頭に回して両腕でしっかりと私を抱きしめてくれる。

髪を撫でられ、少し顔を上向きにされると甘噛みを繰り返していた唇の隙間から熱い熱が入り込んでくる。
驚いた私の中であっという間に熱に捕らわれた舌が呼吸もろとも吸い上げられる。
息が止まりそうなくらいびっくりして苦しかったけれど、強く絡められる熱が、土方さんが愛しくて、私もぎゅっと土方さんにしがみつく。

濡れた呼吸と熱い吐息が支配する中で、お互いを求め続ける気持ちは留まることがなかった。
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