僕のおねえさん
□82.
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「で?なんだ、聞きたい事って」
目の前に差し出されたグラスを受け取りジト〜っと見上げると、さっさと僕に背を向けカウンターの端に置いてあるノートパソコンを起動させて僕を見ないまま聞いてくる。
「っていうか。どうして僕が土方さんの部屋になんか上がらなきゃならないんですか」
「あぁあ?」
受け取った麦茶に口を付けることなくテーブルに置いてソファにドッサリともたれかかる。
「お前が暑い暑い言うから連れて来てやったんだろうが」
「暑いとは言いましたけど。普通来ませんよね、土方さんちなんて」
「!!なんてとはどーいう意味だ!」
それまで僕に背を向けノートパソコンに向けていた顔を勢いよく振り向かせ目を吊り上げる。もう…、暑苦しいな。
「普通あのシチュエーションから話のできる場所に移動するって言ったら近くのカフェとか入るでしょう、パフェくらいご馳走してくれるんじゃないかなって思うじゃないですか」
「ないですかって、なんで俺がお前とサシでカフェに入ってゆっくり茶ぁしばかなきゃなんねんだ!俺だって暇でほっつき歩いてたわけじゃねぇんだ」
「だからって家に連れ込むなんて…」
「人聞きの悪い言い方すんじゃねぇっ!昼過ぎまでにこいつを送らなきゃならなかったんだから仕方ねぇだろ」
そう言って作業が終わったのかノートパソコンの脇からUSBを取り外して僕に見せつける。
「仕方ねぇだろって、知りませんよ僕には関係ないし。大体そんな急を要する大事な仕事、忘れて行くから悪いんじゃないですか」
ツンと言い放って何気無く向いた正面の壁際に大量に積み重ねられた本の塊が目に止まった。
「!………。」
その独特の積み重ね方に一瞬目を瞠って息を飲んで、それからリビング全体をぐるっと見回す。
足元や家具に沿うように乱雑に散らばり積まれる本が所々に目につくけれど、どの山も普通に、適当に積み重ねただけの本の山。
「………?」
突然黙ってしまった僕に気付いた土方さんが不思議そうな顔をして眉間にシワを寄せて首を傾げたのがわかった。
「…どうした。いきなり黙り込んで…、」
「…………、」
「?」
「………名前ちゃんと…」
「……、ぁあ?」
「名前ちゃんと付き合ってるって、本当なんですか?」
最後に正面の壁に積み重ねられたまるで本棚のような塊をじっと見つめて呟き、そして視線だけを土方さんへと向ける。
「……、なんだいきなり…」
僕の向けた視線と突然の質問が思いのほか鋭かったようで、一瞬土方さんの息が引き攣ったのがわかった。
だけどそんな動揺もすぐに姿を消すかのように僕から視線を逸らしながら足元に置いたカバンの中にUSBをしまい込む。
「隠さないで下さいよ。名前ちゃん、こんなところに連れ込んだりして…。そうやってまっすぐ僕の顔を見れないって事は…、何かやましいことでも…、僕に言えない事があるって事なんでしょ?」
「なっ…、」
「あの本の積み方、あんな積み重ね方する人なんて僕の知る限り名前ちゃんしかいませんから。」
「………、」
土方さんの視線が壁際の本へと向けられる。
「それに、隠してるようですけど二人がお互いを想い合ってることくらい見てればわかりますから。下手に隠したって無駄なんですよ」
本を見つめる土方さんへまっすぐに視線を向けて言い放ちツンと顔を逸らす。
「総司…」
小さく僕の名前を呟き土方さんがこっちを向いたのがわかる。
「…お前には、ちゃんとした俺の気持ちを聞いてもらおうと思ってすぐには言えな…」
「僕は認めない。」
「っ!?」
ソファーから立ち上がりまっすぐに土方さんの視線を捉え睨みつける。
「どんな綺麗事並べたセリフを考えたって無駄ですよ。僕は…、名前ちゃんの傷付いた顔なんて見たくない…。」
視線を外すことなく言う僕の言葉に土方さんがどう思っているのかはわからないけれど、動揺していることは確かだ。
言葉も出ないその様子に構わず僕は続ける。
「名前ちゃんは…、胸に抱えたコンプレックスのせいでずっと辛い思いをしてきたんだ。それを…、名前ちゃんは土方さんのおかげで心が楽になったって、本当に嬉しそうにしてたのに…」
「…………、」
「それなのに…、どうして名前ちゃんの笑顔を消すようなこと…。名前ちゃんがまた前みたいに、男性恐怖症みたいになったらどうするつもりですか!?」
「なっ…、ちょっと待て、落ち着け総司。あいつの傷付いた顔って…」
「そんなこともわからないんですか!?自分のしたことでどれだけ名前ちゃんが傷付いたか」
「待て待て、落ち着け!俺が何したって…」
距離を詰めて今にも殴り掛かってしまいそうな勢いの僕の肩に土方さんの手が置かれるように伸びてくるけど、それをすかさず払いのけて真正面から土方さんを睨みつける。
「自分が何したのかもわからないなんて重症ですね。つい最近の事だってのに」
吐き捨てるように言うと、土方さんはまだわかってないのか明らかにいつもの偉そうな態度は消え、僕の勢いに圧され戸惑った表情をしながら言葉を詰まらせているようだった。