僕のおねえさん

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平日の帰宅ラッシュの時間帯だというのにこの時期の電車はそんな事はお構いなしに、いつも通りの疲れた顔の社会人に紛れて、夏休みを有意義に満喫し、羽を伸ばして一日中遊びまわってきたであろう学生達が多く乗り合わせている。

いつも以上に座る座席なんてない電車に乗り込み、ごった返す車内から視線を窓の外へと向ける。

流れていく景色の向こう側に沈んでいくオレンジ色の夕陽が時折目に直接突き刺さるように眩しくて、
全然関係ないのになんだかすごく切なくなる。

朝の電車とは違って賑やかな車内の雑音の中、流れる窓の外の景色に関係なく、私の視界には何故かまっすぐに私を見つめて立っている土方さんの姿が浮かぶ。



『今日は…
…また今度』



LINEに表示された文字が土方さんの声で、土方さんの言葉となって頭の中で繰り返される。


あの時確かにあそこにいたのに…。
ふと目を離してもう一度見た時にはもうそこにはいなくて。

まるであの夕陽のように、さっきまで街全体をオレンジ色に染めてたくせに、ちょっと目を離した瞬間に沈んで見えなくなるみたい。


太陽が沈み去って行った街は群青色の夜空が覆い、蒸し暑い夏の星空が姿を現す。
賑やかな夏の夜が始まろうとしていて乗り合わせた若者達は、遊び疲れるだなんて事もなく楽しそうにはしゃいでいる。

今までだって毎日会ったり声を聞いたりしていたわけじゃないのに…。

どうしてこんなに…。




初めて勇気を出して送ったメッセージを断られたことで、こんなにもショックを受けるだなんて思いもよらなかった…。

土方さんだって仕事があるんだから、忙しくて会えない時があることくらい分かってる。

分かってたけど…。


どうしてこんなに切ないんだろう。


総ちゃんの誕生会以来会うことのなかった土方さんの姿をほんの一瞬見つけただけで、こんなにも会いたいと思うなんて…。


自分がこんなにも、

こんなにも土方さんの事を好きだったんだって
気付いてしまったらどうしようもなく胸が苦しくなる。


一緒に手をつないで歩いた帰り道とか、
ギュッて抱きしめられた時に感じた土方さんの胸の鼓動とか。

合わせた唇の優しい感触…。

今思えばものすごく胸がキュッとして苦しくなるくらいなのに…。
どうして総ちゃんの誕生会で平気でいられたのか自分でも信じられない。


近藤さんちの台所でだって…。




『お前がいると勝手に顔がにやけるんだよ…。』



目の下を僅かに赤らめてそっぽ向いて呟いた土方さんの横顔を思い出すと、
今の私だったらきっとその後、あんな風に普通にみんなのいる場所に戻るなんてできなかった。

あの時の私はどうかしてたんだ。


あんな風に強引に抱き寄せられて、
き…、

キス…、されて…。


好きっていう本当の気持ちを分かってなかったんだ。

ドキドキする事と好きって事は同じようで同じじゃない。

なんか…、よくわからないけど、

今の私は間違いなく土方さんの事が好き


会えないとさみしい。
声を聞きたい。

こんな風に誰かを思うことなんて初めてで、


苦しくて切ないよ。
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