僕のおねえさん

□80.
1ページ/3ページ

☆★交わった視線のその先は…★☆QLOOKアクセス解析



「こんな所で…、珍しいこともあるもんだな…」

「………。」



ふっと鼻で笑い俺を見下ろす視線と対峙するようにしているとその先から男の割りには高めの癇に障る声が更に俺の名を呼ぶ。



「おや。これはこれは。誰かと思えば、薄桜学園の土方教頭じゃありませんか。何かご用でも?」



俺と対峙する男、芹沢の背後から現れ前に出て近付いてきたのは新見錦。笑顔を作っているようだが、その細められた眼差しはいつ見てもいけすかねぇ、人の内側を探るような表情だ。

俺がここにいること自体そもそもこいつらにとっちゃありえねぇ事で、用もないのにこんなとこで出くわすなんざ俺も付いてねぇ…。
言い訳すら考えることもできないまま口を閉ざし、ただ黙ったままでいる俺に向けられていた視線がふと何かを見つけたのか俺の背後に向けられる。

その視線の動きに合わせるように振り返ろうとしたと同時に「暑い中わざわざすみません!」と言う声とともに男が駆け寄って来た。



「あぁ、大鳥さん。今日も大盛況ですな」



ニンマリと目を細めた新見に首を小さく傾げ微笑みながら走ってきた男はそれに応える言葉を発する前に俺の存在に気付いたのか駆け寄る速度を緩めながら俺の横に立ち止まる。



「あ…、あなたは確か…」



そう言って丸い目で見上げるこの男は…、確か名前の店がうちの学校に入る時に何度かツネさんと打ち合わせをするために来ていたのを見かけたことがある…。

虚ろな記憶を手繰り寄せるようにその面影と目の前の男の顔を重ね合わせるようにしているところに新見が口を挟む。



「おや、お知り合いでしたか、まぁ彼もおたくの会社の取引先の人間でもありますし、見かけたこと位はあるのかもしれませんな」

「…うちの?………、あぁ!薄桜学園の!」



新見の言葉によって思いついたようにパッと表情を明るくさせ右手を俺の前に差し出す。



「いつも大変お世話になっています。島田や沖田の上司の大鳥と申します」



差し出した右手を僅かに高さを上げ、握手を求められるままにその手に自分の手を差し出し名乗ろうと口を開きかけた時、サッと間に割って入るように新見の腕が伸び、大鳥の肩に乗せられあっという間に大鳥は方向転換させられる。



「さぁ、もう間もなく先方もいらっしゃる頃ですよ。お店で待機させていただきますかね!」



言いながら大鳥の背中を押すように名前の店へと歩き出す。
その二人の背中を目で追う俺の横をゆっくりと通り過ぎる芹沢は、俺に何かを言うでもなく横目でチラリと視線を寄越しそのまま新見たちの後を歩いていく。



「…………。」



立ち尽くす俺の視界には芹沢の登場に慌てて背筋を伸ばすアルバイトの男の姿と、カウンター越しに大鳥に声を掛けられ急いで外に飛び出して挨拶をする名前の姿。

そしてケータイが着信したのかそれを取り出し耳に当てた新見がこちらを振り返ると同じように大鳥と名前もこちらへと顔を向ける。


その瞬間、まるで時が止まったかのように…、
離れた距離さえも感じないほど、俺の目には名前の姿しか映らなくなる。

名前の視線がまっすぐに俺に向けられお互いの視線が交わると、身動きすらできないほど捕らわれたような感覚を覚える…。


そんな俺の横を大柄の男が大きな声で話しながら駆け抜けた事によってハッと我に返る。



「いやぁ〜!えらいすんませんっ!まっこと広い学校でたまげたぜよっ!」



その男の登場に名前の視線がハッと丸くなり俺からその男へと移る。

名前の視線がそれたことにより俺自身、気の抜けたように体の力が抜け強張っていたのか肩が下がる。

仕事の話だろう、新見が間に入って芹沢と大鳥をその男に紹介しているようだ。

ふたりと名刺交換を済ませた男は大鳥から名前を紹介されると 、まるで近藤さんがするような仕草で両手で名前の手を取り握手を交わす。
その大きな動きに驚きながらも笑みを浮かべて挨拶を交わす名前の様子を見つめ、そのまま踵を返し来た道を戻る。



「なにやってんだ俺は…」



誰に言うでもなく、
職場を離れ意味もなく走ってきた自分に独り言ちると途端に夏の昼下がりの陽射しの暑さが増したように感じ倦怠感が襲う。

茹だる空気の中、放置して来た残りの残務処理を面倒臭く思いながらゆっくりと足を進めた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ