僕のおねえさん

□79.
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☆★生徒会新聞からの全国誌進出★☆QLOOKアクセス解析





近藤さんちでやってもらった総ちゃんのお誕生会の後、あれからなんだかやたらと人から見られているような感じがして落ち着かない。
人目が気になるのは前からもそうだったんだけど、それ以上に前にも増してその視線があからさまになったように思う。

はじめは気のせいだと思ってたんだけど、ふと視線を感じる方へ目を向けると意外にも私を見てきゃあって歓声を上げたり、ひそひそ顔を寄せ合い私の顔を確認すると『やっぱりそうだよ!』と言っているのは若そうな女の子だったりすることが多いみたい。

そんな落ち着かない気持ちで迎えた週明け、落ち着かないながらも、いつも通り通勤して普段通りにお店の準備をしていると元気な声とともにお千ちゃんが校舎から何かを掲げながら駆け寄ってきた。



「名前さ〜ん!」

「お、お千ちゃん…」



お千ちゃんが持っていたものが例の物だとわかると、ドキッと心臓が嫌な動きをする。



「はぁっ、はぁ…、名前さん、おはよ…」

「お、おはようお千ちゃん…、大丈夫?お水飲む?」



物凄い勢いで駆けてきたのか膝に手を付き背中を大きく上下させながら呼吸を整えるお千ちゃんに慌ててコップにお水を注いで差し出すと、切れ切れのお礼を短く発してそれを一気に飲み干した。



「だ…、大丈夫…?」



ぷはぁっと大きく息を吐いてガクッと項垂れた頭を上げると、ようやく呼吸が整ったのかカウンターにダンっとコップを置いて、持ってきた冊子をバッと両手で開いて私の目の前に見せつける。



「コレっ!名前さん見ました!?」



まさしくそれは先週末、平助君が持ってきた無料の情報誌と同じもので、街のいたるところに他の無料情報誌と共に設置してあるのをつい昨日目撃したばかり。

昨日の日曜日、買い物に行った時もお店の入り口に設置してあるのを見かけたし、店内のエスカレータ脇だったり自販機横にもたくさん設置されていた。

普段そんなの気にも留めなかったのに…。
あの日から向けられる好奇の視線はコレが元になってると思うと、もういてもたってもいられなくなるくらい、目につく冊子を片っ端から全て撤去したい気分になった。
もちろん、そんなことする勇気なんて全くないから、向けられる視線に耐えられなくなって俯いて急ぎ足でその場を立ち去ることしかできなかったんだけど…。


この冊子に乗っている写真の提供者がお千ちゃんなんだと思うと、どうしてこんなことになったのか訳を聞かないことには納得できない。
というか、聞いたところで納得しようができまいが、もう時すでに遅しなんだけど…。



「見ました?…じゃないよぅ…。お千ちゃん、一体どうなってるの?コレ、前に取材って言って写真撮ってたやつだよね?どうしてコレがこんな情報誌に流用されてるの?」



ほんとに無断で困るんだけど!とため息交じりに、本当はもっと勢い付けてぴしゃりと言い放ちたい気持ちを抑えて聞くと、お千ちゃんはそれはそれは眩しいほどの笑顔を私の顔の真ん前に向けて、嬉しそうに声を弾ませた。



「うふふっ!それがね!!コレ、校内の生徒会新聞で発行した記事なんだけど!それを見た生徒の保護者の目に留まっちゃって!こうしてこの情報誌に乗っちゃったてわけなのよっ!」



すごいでしょー!キャー!と情報誌がくしゃくしゃになるのもお構いなしに両手で抱え込んで胸に押し当てるお千ちゃんは本当に嬉しそう。


な ん だ け ど 。



「え…、ちょ…、っと…。あのお千ちゃん?…言ってる意味があんまりよくわからないんだけど?」



私の声が聞こえてるのか、私がここに存在していることすら忘れてるんじゃないかってくらいのはしゃぎようのお千ちゃんに声をかけると、「え!?何が!?」と嬉しそうに振り向かれる。



「え…、ぃやだから、なんか話が飛躍しすぎて…、」

「???どこが???」

「…どこがって……、」



だって、
校内発行の配布物でしょ?生徒が持ち帰って親が見る。
そこまでは分かるよ?どこの家庭でもまぁ普通の流れ?
だけど、どうしてそこからこの情報誌にひとっ飛びするわけ???

納得いかない私を見兼ねたのか大はしゃぎのお千ちゃんは、はぁっと呆れたため息をつくと「だからね?」と得意げに説明し始めた。



「私たち生徒会が発行した校内新聞の記事をここの生徒の保護者が見てね?その保護者ってのがこの情報誌の編集部の人だったってわけ。で、偶然にも特集組んでたネタと私の書いた記事が被ってた上に、真新しい構内施設なわけじゃない?ぜひネタ提供して欲しい!って頼み込まれちゃって!」



「ほら見て!取材協力、島原女子高等学校生徒会!すごくな〜い!?」と巻末ページにある細かい文字を指して見せてくるお千ちゃんに水をさすような事なんて言えるはずもなく、
それにもう、こうしていろんな所に出回っている以上どうすることもできないんだし、これだけ嬉しそうにはしゃいでるお千ちゃんを見てると、仕方ないかとしか言えなくなってしまっていた。



だけど、
この小さな町の情報誌に掲載されたことにより、この先会社や学校関係者が動き出す事になるだなんて、
この時の私には思いつく事すらできるはずのない事だった。
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