僕のおねえさん

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こ、これは…、

平助君が持ってきたフリーペーパーのとあるページを覗き込む総勢9名の男女。
その輪から一歩後退してとある日の事を思い返す…。


あの写真…、
私が写ってる写真、二枚とも作業中の私をどこかからか撮ったアングル。

お千ちゃんの取材とやらを思い出す。




そうだ、あの日、取材するねって言ってとりあえず風景から写真撮ってくからいつも通りお仕事しててねって言ってたんだっけ。

それであの写真…。

両方ともカメラ目線ではないけれど、しっかり私にピントが合わされていて、知ってる人が見ればすぐに私だって気付くくらいの大きさの写真。



「名前ちゃん、しっかりイイ笑顔で接客できてるじゃない〜、かわいいかわいい!」

「こっちはアレか、このコーヒーの上に絵を書いてるとこだなっ」

「ラテアートっつんだよ、新八」

「楽しそうにやってるようでいいじゃないか〜」

「なぁ〜!?こんなとこに名前さんが載ってるなんてビッグニュースだろ〜!?」



和気あいあいと冊子を覗き込みながら話す大人たちにどうだとばかりに頭の後ろに手を組んでふんぞり返る平助君。



「学食ランキングなのに補足コメントの名前ちゃんのお店の方がなんだか目立つ書き方ね〜。きっとこれからもっとお客さん増えちゃうわよ〜」



嬉しそうに振り向く近藤さんに合わせてみんなが私の方へ笑顔で振り返る。



「っ…、………、そ、そうです、ね…」



こ、こんな…、
こんなはっきりと…、まさか自分が写されていたなんて…。
私、遠くからお店全体の写真撮ってるとこと撮影用に用意したラテアートの写真撮ってるとこしか知らないのに…。
それよりも、お千ちゃんが撮った写真がなんでこんな情報誌に使われているのか訳がわからない。
だって、私てっきり学校の中だけのものだと思ってたんだもん。
学校新聞的な、
そんなレベルの物だと思ってたのに…。




「…そんなことよりって、何…?」



私が顔面蒼白で呆然としている横でそんな小さな呟き声が聞こえてくる。
ふとその声のした方へ顔を上げれば、前髪で目元が隠れるほど俯いた総ちゃんがただならぬオーラを発していて思わず後ずさりするほど、というより息が引き攣った。



「っ!!」



私の引き攣った言葉にならない声にみんなもそっちへと視線を上げる。



「っ!!?」

「そ…、」

「総司!?」



夏真っ盛りなのに何この背筋の凍りつくような感覚は!?
ものすごいダークで不穏な空気を纏った総ちゃんの体から試衛館道場全体を覆うような感じで暗雲が立ち込める。



「千鶴ちゃん…、さっき『そんなことより』って、…言ったよね…」

「っ!!?」

「それに平助君…、まさかとは思うけど、こんなんで僕のプレゼント買ってきてやった…、だなんて自己満足してる訳ないよね… 」

「なっ!!?」



俯いていた顔をゆらりと上げ、そこから覗いた眼光はまさに悪魔か死神の死の宣告。
ギラーンと悍ましい光が平助君と千鶴ちゃんにロックオン。



「僕の誕生会なのに、コレ、どういう事…?」



低くゆっくりとものすごい圧力でのし掛かる総ちゃんの声に、もはや二人は部屋の隅に追い込まれてすくみ上って動けないハムスターのようなありさま。
私の顔面蒼白なんて足元にも及ばないくらい顔を真っ青にして二人手を取り合って震え上がっている。



「ったく…、こんなもんいちいち持ち込んで騒いでんじゃねぇよ」



そんなただならぬ空気を変えたのは舌打ちと共に永倉さんの手からフリーペーパーを取り上げた土方さんの声だった。



「いつまでも騒いでねぇで、とっとと飯にするぞ。食いもんみんな陽にやられちまうだろうが。」



取り上げたフリーペーパーを手に縁側へと上がり、道場の床へと放り投げる。
縁側との仕切りの向こうに見えなくなったそれをみんな目で追っていたけれど、テーブルの前にどっかりと座りこんだ土方さんを見て、



「そ、そうね!総司君のお誕生日会だもの!楽しくしましょうね!」



と近藤さんが無理やりにでもといった感じで空気を払うようにぱぁっと両手を広げる。



「そうだぞ!総司の誕生日会だ!楽しもうじゃないか!なぁ総司!」



近藤先生に肩を組まれて言われれば、さすがの総ちゃんもいつまでも怒ってはいない。



「さぁ、総司はなにが一番好物だ!?」



近藤先生に連れて行かれて縁側へ上がる。



「さ、お誕生日席はここよ!」



近藤さんに指示された席へと目を向けるとそこはさっき座った土方さんの隣。



「ちょっと…、なんで僕の隣に土方さんなんですか。あっち行ってくださいよ」

「な…、」

「ははは、いいじゃないか!こっちの隣には俺が座ろう!」

「近藤さん…。」



近藤先生の明るさに徐々に総ちゃんの顔色も血色良くなっていくみたい。あぁ、よかった。



「ったく、じゃーここは斎藤、お前が座れ」

「…はい」



立てた膝に手を置いて腰を上げながらはじめ君に言うと、立ち上がり場所を空ける。
土方さんに呼ばれたはじめ君も素直に返事をしてさっと動く。

確かに今のこの状況で総ちゃんの隣に座れるのって言ったら、…はじめ君くらいなのかな…。
チラっとみんなの顔色を伺ってみても、表情に変化がないのははじめ君だけみたいだし。



「おら、お前らも突っ立ってねぇでさっさと座りやがれ」



土方さんの号令にみんなも、どもりながらも笑顔を取り繕って縁側へと集まりそれぞれ空いている場所に腰を下ろす。



「それじゃあ皆さん、グラスを持って?総司君の17回目のお誕生日を祝して、かんぱ〜い!」



近藤さんの元気な祝辞と共に青く晴れ渡った空にそれぞれのグラスが高く掲げられた。
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