僕のおねえさん
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☆★総ちゃんのお誕生会in試衛館道場★☆
「近藤さん、これ、ここでいいですか?」
「あぁ!ありがとう!総司、今日は総司のお祝いなんだから、準備は俺たちに任せておけばいいんだぞ?」
「近藤さん…、ありがとうございます!でも、僕にも手伝わせてください。近藤さんの言うことだったら僕、なんでもやりますから!」
「お?そうか?総司は働き者だなぁ、感心感心!ならちょっとそっちを持ち上げてくれるか?」
「はいっ♪」
………、
「総司君、相変わらず勇さんLOVEね」
総ちゃんの好きなものばかりのお誕生日用オードブルを運び縁側まで来ると、庭先で元気はつらつな近藤先生の声と総ちゃんのいい子ぶりっこな声が聞こえ、両手に持っていた大皿の重ささえ忘れてしまうくらい、その光景を足を止めて見ていると後ろから来た近藤さんに耳元で呟かれた。
「……、総ちゃん、本当に近藤先生大好きなんですよね…」
近藤さんの呟きと同じ内容なのに言わずにはいられない私の呟き。
だって、他に言葉が出てこないんだもん…。
「まあ、今に始まったことでもないんだけどね。」
「………そうですね」
総ちゃんの近藤先生への愛は今に始まったことでもないから今更なんとも思わないんだけれど、それでもやっぱり思うことは、総ちゃんの変わりっぷりが凄まじい…。
ってこと、なんだよね。
猫かぶりなのか、それとも普段の鋭さが特別装備なのかは謎だけど。
実際の総ちゃんは…、近藤さんとああやって笑いあってる方がきっと本当の総ちゃんなんじゃないかな〜って、ちょっと希望。
来週お誕生日を迎えてまた一つ年を重ねるわけだけど、いつまでもこんな風に笑っていてくれるといいな〜。常に誰に対してもあの状態でいてくれるといいな〜。
って、希望。
縁側にセッティングされた大きな机に次々とお料理を運んでいると、やがて時間が近付くにつれて近藤さんから招待されたメンバーが揃いはじめる。
やっぱり一番最初に到着したのははじめくん。
前回の土方先生のお誕生会では一番乗りだったみたいだけど、今回は惜しくも二番乗り。
総ちゃんの近藤先生LOVEにはちょっと愛が及ばなかったみたい。
だって前回の土方先生のお誕生日会の時は私の家事が終わるまでリビングでのんびりテレビ見て時間を過ごしていたのに、今日は『家のことなんていいから早く行こうよ!』って急かされたくらいだもん。
それだけ近藤さんが自分のためにしてくれる事が嬉しくてたまらないって事なんだよね。
総ちゃん、やっぱりそういうところ、昔から変わってなくてかわいいな。
それから次にやってきたのは永倉さんと原田先生。
最初、近藤さんから総ちゃんの誕生会をするから来てね!って私にもお誘いいただいた時に、原田先生も来るけど…、って一言があって少し躊躇したけれど、実際あの日何かがあったわけでもないし、酔った勢いでついふざけてしまったんだ!特別なことじゃないんだ!っ て思うようにして、何とかマインドコントロールで参加を決意した私。
だって、いつまでも避けてたって仕方のないことだし、私がいつまでもこんなことで気にしていたら原田先生だってどれだけ悪いことしたんだって思っちゃうかもしれないし。
だから、原田先生の顔を目の当たりにしても、思ったよりもそんなに心が怯むことはなかった。
「いらっしゃい!待ってたわよ!」
「こんちわ〜っす!」
近藤さんの元気な声に永倉さんも元気に大きな笑顔で挨拶して、それから私と目が合うと一度大きく目を丸くして驚いた顔をした後、シャキンと背筋を伸ばして勢いよく縁側まで駆け寄って来た。
「名前ちゃんっ!ひっさしぶりじゃねぇか!元気にしてたか〜?」
「あわ、は…、はい、元気です。永倉さんも相変わらずすごいですね、勢いが…」
いつも通りの永倉さんの勢いに少しどもっちゃったけど、黙っていなくなった私に対しても久々の再会なのに以前と変わらず接してくれることがすごくうれしい。
「…よぉ、名前」
「…、こ、こんにちは」
満面の笑みを浮かべて大はしゃぎの永倉先生の後ろからそっと声をかけてきた原田先生が私を見上げる。
その瞳は、なんだか少しだけ後ろめたさを感じているのか普段の原田先生らしくもない色で、私のせいでこんな風にさせてしまったのかと次第に胸がギュッとなってくる。
「その…、悪かったな、こないだ は…、」
「…ぅ、い、いえ…、その、私こそ、あんな風に逃げるように帰ってしまって…、せっかく送って頂いたのに…。ごめんなさい!」
みんなが見ている前だったけど、原田先生があまりにも申し訳なさそうに呟くから、つい私も胸の苦しさに負けそうになって、それを吐き出すように頭を下げて謝ると、その瞬間、近藤家の庭先の時間がピタリと止まったかのような静寂に包まれる。