僕のおねえさん

□75.
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「みぃ〜ちゃったーみぃーちゃった!♪」

「っ!」



駅へ向かって来た道を折り返して歩いていると随分先の方から人を小馬鹿にするような、
いや、まるで小学生のガキが言うようなフレーズに足が止まる。



「…………、」

「見たわよ見たわよ、見ちゃったわよぉ〜♪」

「…ツネさん…」



夕陽を背負って満面の笑みでベビーカーを押しながら大量の買い物袋をぶら下げているにもかかわらず、駿足で目の前に駆け寄ってきたのは近藤さんの最愛の妻、ツネさんだった。



「やだわもぉお〜!歳三君ったら☆まだまだ日は高いわよ!こんなところで!いつ誰に目撃されても文句言えないわよぉ〜?」



素早く俺の隣に並ぶと肘で突ついて冷やかし始める。

確かにもう蝉の鳴き声が響き渡る季節なだけあって、同じ時間でも冬と比べりゃ日が長くなり、空はまだ茜色に染まる程度で外灯もちらほらと点き始めるくらいだ。



「まぁ歳三君ならいつどこでだろうと絵になるからいいだろうけど?相手のことも考えてあげないと〜。相手の子だって知ってる人に目撃されたら冷やかされちゃって可哀想よ?」

「…………。」

「で?相手は誰よ?また『言い寄られてしつこいからテキトーにあしらっただけだ』とかいい加減なこと言わせないわよぉ〜?」



ほんと色男は憎いわねぇ〜!とまるで某国民的アニメに出てくる海鮮系ねえさんキャラのノリで面白がるツネさんを一瞥してため息をつく。



「…、ツネさん…、あんた俺をなんだと思ってやがるんだ…、俺ぁそんな原田みてぇなこたしねぇだろう…」

「あら、そうだったかしら?おかしいわね。で?相手は誰?ご近所さんなの?」

「…………。」



ったく…。めんどくせぇとこ見られちまったな…。
あいつ、放心状態でフリーズしていたが、まだあそこで突っ立ってねぇだろうな…。
とりあえず少しでも時間稼いどくか。



「んなことより今日はまたすげえ荷物だな。なんか集まりでもあるのか?」



これといってツネさんとの共通の話題なんて見つけられねぇ俺にしてはなかなかうまいこと話を振ったんじゃねぇかと思う。
ベビーカーのハンドル部分にズッシリと掛けられた買い物袋や、ツネさんの両肩から提げられている袋を見やる。



「あ、あぁ、コレね。ほら、今月は総司くんのお誕生日があるじゃない?だからね、またみんなで集まるでしょ?」

「あー、そういやそうだったな」

「今週末の予定だから、デートとか予定入れないでね!」

「………、」



わざとらしい笑みを浮かべて言うあたり、本当にこの人は俺をなんだと思ってやがるんだと思う。



「あー、それと!お誕生会、名前ちゃんも呼びたいんだけど〜…、」

「…?」



それまでとは変わって突然言いにくそうな口ぶりで俺をチラリと見上げるツネさんにどうしたんだと俺も視線を下ろして合わせると、うーんと小さく唸りながら話を続ける。



「ここしばらく名前ちゃんがうちの学校に来てないのはもう知ってるわよねぇ?」

「ん…?…あー、まぁ」

「ん〜…、私も詳しくは聞けてないんだけど、名前ちゃん、他にできた店舗に急に移動になっちゃったのよね。」

「…………。」


「移動先、前に歳三君に聞かれたこともあったけど、誰にも言わないでって口止めされてるから私からは言えないんだけどさ。それって、…どうだと思う?」

「あ?……、どうって…、」



何処か俺を試すような聞き方のツネさんの問いかけに内心怯む。
知ってる上で聞いてるとしか思えねぇが…。
だが…、俺は何もしてねぇ訳だし、今となっては…、



「大鳥部長から名前ちゃんの移動についてお話された時は、新店舗オープンにはどうしても名前ちゃんしか適任がいなくって、って言われたの。それに名前ちゃんがうちで度々体調崩しちゃってるのも、ちょっと問題が…って。それってあれでしょ?歳三くんも山南さんから聞いたと思うけど…」

「あぁ、男性恐怖症だとか言ってたな」

「うーん…、まぁ、そこまで重症ってわけじゃないけれど、確かにいきなり男ばかりの環境ってのはちょっと可哀想だったかなぁ〜って私も反省してるの。その点、新しい所はうちみたいに男子ばっかりってわけじゃないみたいだしねっ!」



満足そうに語尾を強調して言った後ハッと慌てて口を塞ぎ「いけないいけない内緒だったわ」と額の汗を拭う仕草をするツネさん。



「まぁ、私としてはさみしいけれど、名前ちゃんが楽しく仕事できるならそれでいっかって思って!」

「まぁそうだな」



毎日井上やらなんやらにビクビクしながら働くくらいなら、ツテはなくても不安因子のない環境の方が精神的にもいいだろう。
軽く返事をして応えると肩の荷物が重いのかよいしょと担ぎなおして話を続けようとするからその肩から荷物を攫い来た道を一歩戻る。



「立ち話もなんだし、運んでやるよ」

「あら優しいわ〜!さすがね!」



何がさすがなんだか。
「ありがとう〜!」とか言いながらもう片方の肩から提げていた買い物袋も手渡され一気に重量が増す。
重…。どんだけ買い込んできたんだ…。
ズッシリと重くなった足取りでゆっくりと足を進めた。
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