僕のおねえさん
□75.
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☆★ツネさんですから。そりゃもう勘の鋭さは天下一品でしょう★☆
土方さんからエクレアの差し入れを貰った私。
せっかくもらったんだし二つ入ってるわけだからと駅の噴水広場で一緒に食べたいなって思ってたのに土方さんは、
「俺はいい。帰って総司と一緒に食え」
って言ってそのまま私の手を引いて、そしてそのまま私の家の方へと公園を抜けて行く。
土方さん、甘いの苦手なのかな…?
そう思いながら繋がった手を見ながら歩いていると、やがて近付く私の家。
土方さんがゆっくりと立ち止まり振り返る。
「…………、」
「…………、」
ここまで歩いてくる間もそうだったけど…、
私たちふたり、特に会話がないんだよね…。
ただ、手を繋いで歩いて、
かと言って何か話さなきゃ!って焦燥に駆られたりはしないんだけど…、
なんなんだろう、これ。
きっと話し始めの言葉を見つけるのが難しいのかな。意識しすぎて…。
家はすぐそこなのに、二人とも繋いだ手を離さないままじっと黙っちゃってる。
土方さんも、同じなのかな…。
そっと視線を上げてみると土方さんも私を見つめていたのかバチっと目が合う。
「っ!」
「……、」
「あっ…、あの!またもや送っていただいて、あ、ありがとうございましたっ!」
「っ…、あ?…あぁ…」
「え、エクレアもっ!」
「……、ふっ!」
「!!」
「…お前…、ほんとおもしれェな。」
「っ…」
力を込めて返事をする私が可笑しかったのか、くくくっと眉を下げて苦笑いする土方さんを前にお決まりのようにかぁあっと顔を赤くする私。
お、面白くしてるわけじゃないのに…。これでも一生懸命なのに、やっぱり恋愛経験の差は埋められない。
これから先もずっとこんな風に私ばっかり恥ずかしいのかと思うと、まだ始まったばかりのお付き合いなのに先行き不安というか、耐えていけるのか心配になる…。
「んな苦虫噛み潰したみてぇな顔してんじゃねぇよ。」
小さく唸って俯いていた頭をぽんぽんされてさらにうっと顔を顰める。
なんで俯いた顔までわかるんだろう…。
「ははっ、おら、とっとと帰って甘いもんでも食って機嫌直せ」
そう言って繋いでた手を離すけれど、足はそのまま、その場で向き合ったまま動こうとしない。
まだ、
離れたくない…、って、思ってる…。
「ひ…、土方さんは…、甘いもの 、食べないんですか?」
まだ一緒に居たくて、こんな事聞いて、
少しでもいいから一緒の時間を過ごしたいと思ってる。
さっき土方さんが言ってた事がわかる。
私を待つ事でさえ楽しみだって…。
きっと今、こんな質問する私の本心を、土方さんもわかってるんだと思う。
こんな質問にさえきちんと答えてくれるんだもん。
「甘いモンか…、そうだな。食べなくはねぇが…。まぁ自分から好き好んで食ったりはしねぇな」
「そ、そうなんですか…。あ、で、でも!島田さんのスイーツは本当に美味しいんですよ!きっと土方さんも一度食べたらやみつきになっちゃうかも!」
そう言って貰った紙袋を顔の横に掲げて笑ってみせると「へぇ、そうか…」と言って薄っすらと笑みを浮かべ「でも俺は…」といって一歩近付く。
「島田のスイーツよりもお前の方がよっぽど甘くて…」
「っ!?」
「やみつきになる」
後頭部に大きな掌がまわりもう片方の手が頬を包む。
あっという間に土方さんで視界が塞がれそして視界だけじゃなく息も…、
ここで、
同じ場所でされた初めてのキスは、お互いの唇が触れ合うだけのキスだった。
それまでキスなんて一度もしたことなかった私にはそれが全てで、それがキスっていうものだと思ってた。
お互いの唇が重なる、柔らかくて幸せな感覚…。
だけど、こんなキスもあるんだ…、って…、
今日、また新しい感覚を知った。
ただ触れ合うだけのキスだと思ってたのに、
そっと離れたかと思ったのに、私の唇には再び土方さんの唇が触れてきて、それから何度もその柔らかい感触が私の唇に触れては離れて、まるで熱帯魚が仲良く可愛くキスするように、優しくチュッチュと啄ばまれる。
何度かその感触を楽しむようにした唇は最後に強めに押し付けるようにするとそのまま数秒触れ合ったままで、それからゆっくりと離れていく…。
「……………、」
「……………、…?…ふっ、ご馳走さん」
伏せた長い睫毛からそっと深い紫色を覗かせ、放心状態の私を笑って頭を撫でる土方さんは、それはそれは満足そうに笑って私を置いて帰って行った。