僕のおねえさん

□74.
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「用がなきゃ…、だめって…、そういう訳じゃ、ないんですけど…」



足を止めてしまった土方さんを振り返って見上げれば、まっすぐにじっと見つめられてそれまで騒がしく脈打ってた心臓がドキッと大きく脈を打つと、まるでその一回で動きを止めてしまったかのように息苦しくなる。

土方さんの眼差しがじっと私の考えてることを見透かすように突き刺さる。

私の言葉を待っている。



「…………、」

「………、っ…」



意を決して声を振り絞る。冷たい言い方になってしまったけど、本当はそうじゃないんだもん…。



「…その…、だって…、わざわざ駅を越えて、…駅からも近いってわけじゃないのに…、」



なんか違う…、なんでこんな言い方になっちゃうの…!
自分の思ってることがうまく伝えられなくてそれ以上言葉が続かない。



「…………、」



違うのに、

黙って俯いて…。
私、ダメだぁ…。
情けないと思って視界が自分の靴しか映さない。
混み上がる悔しさみたいなものをグッと堪えるとすっと視界を遮るように土方さんの拳が割り込んでくる。

ハッと顔を上げると無表情な目付きで差し出した物を私の目の高さまで上げる。



「っ…!?」



差し出された小さな手提げの紙袋を受け取り中を覗くとそこには見覚えのある懐かしい島田さん特製のエクレアが二つ。



「…!これ…」

「お前に差し入れ。それが用事…、ならいいだろ?」

「!」

「そんなもんなくても…、少しでも時間がありゃあ、お前に会いたいって、待ち伏せして悪いかよ…」



拗ねたようにそっぽ向いて呟く土方さんを見上げれば少しだけ目の下が赤くなってて…、



「………、」



嬉しいのに…、



「だ…、だけど…、連絡してくれたら…、駅で待ち合わせたり…、」



いつ出てくるかわからない私を、わざわざ足を運んでまであんなところで待ちぼうけなんて…、
申し訳ないですって意味で言ってるのにやっぱり上手く言葉では伝えられなくて変な言い方になっちゃう…。
どうしたらうまく伝えられるの!?

するとはぁ〜っと大きくため息が聞こえたかと思うと突然後頭部から引き寄せられて次の瞬間には顔面を固い胸板に押し付けられる。



「わぶっ!?」

「ったく…、お前、全然分かってねぇな…」

「……?」



胸に抱え込まれたまま目を瞠る。
急激にまた心臓がドキドキと煩く鳴り出す。



「いつもの帰り道も…、そっから足伸ばしてお前んとこまで行く間も、お前が出てくるのを待ってる間も…、俺にとっちゃあ楽しみ以外の何物でもねぇんだよ」

「っ…!」



弾かれたように顔を上げれば私から視線を逸らすように、顔を背けて頬を赤らめているのが見えて、私の右手には土方さんの心臓の動きがドキドキと言っているのが伝わってくる。

初めて、キスをした時と同じ。
土方さんだってドキドキしてるってわかった途端に嬉しさが込み上がってきて、私だけじゃないんだって、嬉しくて…、
土方さんの鼓動が愛しくて、上げた顔をもう一度土方さんの胸に埋める。
すると頭の上に土方さんの鼻先が降りてきたのがわかる。
少し背を屈めてさらに額を擦り付けるように左右に顔を動かす土方さんに、恥ずかしさを感じて慌ててしまう。



「ひ…、土方さんっ!?」



や、やだ!頭きっと汗臭いよ!やだぁ〜!

慌てる私の心境をわかっているのかいないのか、そのまま私の頭のてっぺんで鼻から深呼吸する。



「ぃや…っ」

「落ち着く…」



吸った空気を静かに出しながら小さな声で呟く声に「え…?」と思わず聞き返してしまう。



「お前のにおい…、すっげぇ落ち着く…」

「な…っ…!?ちょ…、や、やですっ!離して下さいっ!」



ここ道端だしっ!
今更だけどこんなとこで抱きしめられてることも恥ずかしくてジタバタ騒ぐと、もう一度私の頭に付けた鼻で深呼吸して「はぁっ」とため息を付かれて解放される。



「惚れてる女を待つことくらい、俺にとっちゃ苦でもなんでもねぇんだ。毎日来るわけでもねぇんだし、たまにはいいだろ?」



言いながら手を繋がれて歩き出す。

きゅっと力のこもった土方さんの手を見て、やっぱり恋人同士みたいって思う…。

土方さん…、

私のこと、惚れてる女って言った…。
途端に思い出す 。




『好きだ…』




「!」

一瞬にして体温が上がる。
そんな私に気付いた土方さんがハテナの顔で私の顔を振り返って見る。



「どうした?」

「いっ…、いえ、あの…、」



土方さんは私を好きだと言った。
そして私は…、返事の代わりに土方さんからのキスを受け入れたけど…?

これって…、



「わ…、私と土方さんは…、」

「?」

「…………、」



い、言っても、いい、よね?要確認、だもんね…。

言葉を止めた私を土方さんが怪訝そうに見つめるけれど、意を決して顔を上げる。



「わ、私たちって…、お、お付き合い、して…るんですよ、…ね?これ…」



思い切って聞いた言葉は途切れ途切れで土方さんはキョトンと目を丸くして…。
そんな目で見つめられた私は言ってしまった以上、込み上がってくる恥ずかしさに耐えるしかなくって、めちゃくちゃ顔が熱い。

そもそもこんなことって確認してもいい事なのかどうなのかさえ自信がなくなってくる。
自分の恋愛経験のなさに情けなくなって俯いて顔を隠すしかなかった。
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