僕のおねえさん

□74.
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「よぉ、」

「っ!」



あの日から数日、事あるごとにぼんやりとしては思い出して赤面して…、
蝉の鳴声が鳴り響く中、そんな毎日を繰り返していた私はとうとう幻聴が聞こえてしまうほど恋に恋していたのかと息が止まる。




『好きだ…』

『いいよな…』




何度私の脳を痺れさせたら気が済むの?ってくらい何度も何度もリプレイされるその声が…、

息も足も止まってしまった私の肩にぽんっと大きな手が乗り、もう一度声がかかる。



「おい、聞こえなかったのか?」

「っっっ!!!」

「な…、?」



派手に肩を跳ねあげて硬直する私につられて土方さんまで驚いて肩に置いた手を上げる。



「な…、何そんなにびびってんだよ…。こっちまで驚くだろうが…」

「っ…、す、すすすすみません…」



ぎこちない動きで見上げると目を丸くして驚いていた表情をふっと柔らかいものにして眉を下げて笑う土方さん。



「別に謝るこたねぇよ」



ぽんっと優しく頭の上に乗った手がくしゃりと私の髪を撫でる。
今まで何度も同じようにそうされていたのに、なんだか同じ事でもドキドキが半端ない。
それなのに土方さんは普通に優しい穏やかな顔で私の横に立って一緒に信号待ちしてる。
なんでもない顔で車が行き交う交差点を見つめているんだ。
恥ずかしくて見上げることもできないけれど…、そんな気がする。

黙って私も少し先の車がびゅんびゅん通って行く地面を見つめていると「驚かせて悪かったな…」ってぽつりと呟くような小さな声が車の音に紛れて聞こえてくる。



「っ!ぃっ!いえっ!違うんです!私が妄想しすぎてっ…!」

「……、妄、想…?」

「はっ!ち、ちがっ…!!」



慌てて口を塞ぐけど、もう全然ダメ、私はっきり妄想とか言っちゃってるし、他に言い訳が思いつかないっ!
あまりの恥ずかしさに土方さんを見上げたまま顔がお湯を沸かすみたいに真っ赤になってそのまま動けない。
硬直状態の私を土方さんも目を丸くして見下ろしたまま固まってるみたいだけど、すぐにぶっと吹き出して笑われる。



「…っ、も、妄想って…、お前、どんな妄想してんだよ」

「〜〜〜っ…」



は…、はづかしすぎるっ!

熱くなりすぎた顔を両手で覆い隠して俯いて、もうもう、穴があったら引きこもりたいっ!

覆い隠した手の中で声にならない悲鳴を上げていると「おら、行くぞ」と背中を押される。

顔を上げると目の前の信号は変わり、背中を押された土方さんの手が肩を支えるように添えられる。

そのさり気ない仕草にドキドキしながらも黙って歩き出す。


な…、なんか、これって恋人同士みたいだけど…、


肩に乗る土方さんの手を横目でチラ見して、その指にさえドキッとする。
私の指とは全然違う、男の人の指先…。

こ…、恋人…同士…、って…、

思わず無意識に肩に力が入ってしまい、すぐに土方さんが私の顔を覗き込む。



「?、どうした…?」

「っ!?ど、どうしたって…、いうか、その…、私、こういうの、初めて、で…、」



こんなこと言うの、もすごく恥ずかしかったけれど隠してたってきっと隠しきれないくらいドキドキが半端ないから、しどろもどろになりながらもそう言うと一瞬肩の上の土方さんの手がピクッと強張ったように動き肩から離される。



「わ…、悪い…。」

「あ…っ、あのそのわ…、悪くはないですっ!全然っ!」



土方さんがあまりにも申し訳なさそうに小さく呟くように謝るからつい力を込めたような言い方になってしまった…。
私…、さっきから恥ずかしすぎるってばコレ…。


肩を竦めて俯いて歩いていると、くつくつと堪えきれないように笑っている土方さんに気がついてチラッと上目遣いに見上げると、やっぱり笑うのを堪えて口元を押さえて向こうの肩に顔を向けているのが見えた。



「っ!…ちょ、笑うとか!ひどいですっ!」



私ばっかり恥ずかしくて仕方ないのが恥ずかしくて悔しくて恥ずかしくてついムキになると「わ…、悪い」と涙を滲ませて笑う土方さんに制される。



「お前…、固くなりすぎ…、どうしたんだよ?」



笑いながら言う土方さんにはなんだか余裕を感じて、私だけがこんなにドキドキしてるんだって…、なんだかよくわからない差を感じる。



「どうしたって…、土方さんこそ…、わざわざ…、私に何か用があるんですか…?」



あ…、れ?なんだか冷たい言い方…、こんな風に言うつもりなんて全然ないのに…。
言葉のニュアンス一つに対しても敏感になって臆病になる私の言葉に土方さんはどう思っただろう…。

ドキドキうるさい心臓はちっとも静かになってくれない。
自分で言ってしまった言葉の口調に焦りを感じていると、さっきまでの笑みが消えた土方さんの声がゆっくりと響く。



「何か用って…、用がなきゃダメなのかよ…?」

「っ!?」



返ってきた言葉と声の低さに私の心臓はそれまでのドキドキとは比べものにならないくらい一段と大きく脈を打って、止まってしまうかと思うほど痛んで張り裂けそうなくらいの衝動に襲われたみたいに苦しくなった。
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