僕のおねえさん

□70.
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「こんにちわ、名前さん!」




新しいお店、コーヒーの専門店としてオープンした私のお店に元気よく現れたのは、ここ島原女子高等学校に通う鈴鹿千ちゃん。
彼女はこの学校の生徒会役員を勤めていて、新しくオープンした施設を誰よりも早くチェックしに来て、私がこの学校の卒業生だと知ると、当時の様子を興味深く聞いて来たり、今はこんな風に変わったのよ!と言って私にいろんな情報を与えてくれるとても好奇心旺盛な女の子。

オープン当時は新しい施設という事もあって薄桜学園の時と同様に大変な盛況ぶりだったけれど、やっぱり女子校っていうだけあって駆け込んでくるような生徒はなく、みんなきちんと並んで順番を待ってくれていた。

大きな学食の建物の、いちばん日当たりのいい全面ガラス張りの前のスペースに設置されたオープンテラス。
私の常駐する店舗は天候の悪い日でもきちんと雨風を凌げるよう建物の奥に配され、背後には新緑が生い茂る桜の木、建物と反対側に位置する足元には小さな川を見立てたような水路が流れていてとても居心地のいい空間になっている。
お天気のいい日はこのせせらぎに反射した太陽の光がガラスに反射して、さらにそのガラスからも地面に光を屈折させるから、足元の白い地面にも水のゆらぎが映し出されてとても癒される。

屋外店舗という事で、店舗スタイルも薄桜学園同様移動販売のようなワゴンを置いてあるけれど、これはあくまでも店舗として設置してあるだけで、これを実際移動手段として使うことはない。

お客様対応の際はこの中で作業してカウンター越しに商品の受け渡しをするけれど、備品や在庫の搬入なんかは学食の搬入スペースからお邪魔させて頂いている。

勤務地がここになってからは、私が事務所へ出勤することがほぼなくなった。

足りないものは事前に連絡すれば内勤スタッフが手配してくれるし、売上金やおつり準備金は敷地内にあるATMで入出金できるから私一人でもとても安全。

便利だし、無駄な移動時間なんかも省けてとてもいい環境になったけれど、
それと引き換えにちょっと会社の人とコミュニケーション不足になったというか…、
電話でのやり取りだけで充分になったことで、みんなと毎日顔を合わせることがなくなってしまった。

お客様とのコミュニケーションは以前より上手にできるようになったし、近隣施設の従業員の方々や清掃や警備員の方々とも仲良くさせていただいて、とてもよくしてもらってる。
私一人でも、本当に充分やっていけるようになってるんだけど…。

やっぱり島田さんと、
短い間だったけど一緒にお店やってた頃が懐かしい。

忙しくても島田さんとの連係プレーで乗り越えたお昼過ぎの達成感が懐かしくてひとりで思い出し笑い。
おやつの島田さんスイーツもおいしかったなぁ…。




「やだ、名前さんたら、どうしたの?突然笑い出したりして」



ついつい水の揺らめきに見惚れて頭の中が懐かしい島田さんのエクレアでいっぱいになってたところに、お千ちゃんのハツラツとした声でハッと我に返る。



「あ…、っと。…お千ちゃん…、」

「ちょっと!今完全に私がいる事忘れてましたよねっ!?」



「もぉっ!」とほっぺを膨らましてぷんっとそっぽを向くお千ちゃんに直謝り。



「ご、ごめんごめん!忘れてないって!ちゃんといたいた。ちゃんといました。」

「………。いるからこうして話してるんですけど…。」



じとぉっと呆れたような半目で向けられる眼差し。
う…、目が座ってる…。



「………ですよね…。ごめんなさい。」


「もぉ…、ほんとになんだか頼りないんだから。でも、思いだし笑いだなんて、何かいいことでもあったんですか?」



突如として瞳をキラキラ爛々とさせて上目遣いに覗き込んでくるお千ちゃんは女子高生そのもの。コイバナでも始まるんじゃないかとわくわくしてるのがすっごく伝わってくる。



「いいことなんて…、お千ちゃんが思うような浮いた話は私は持ち合わせてませんよ。」

「え〜!?うそうそ!」

「うそじゃありません。」

「あやしぃ〜〜〜!」



お千ちゃんと話しているとまるで自分まで女子高生に戻ったような会話になってておかしくなる。
若い女の子ってホントにパワー漲るって感じ。



「ほんと、そんなんじゃないよ。ここに来る前にいたお店の事思い出してたの」

「ここにくる前?」

「うん、薄桜学園。駅の反対側をずっと川の方まで行ったところ。」



お千ちゃんなら知ってるだろうと思ってたけど、そう簡単に説明すると予想していたのとは違ってものすごく驚いた表情で素っ頓狂な声を目の前であげられる。



「えっ!薄桜学園?」

「え!?…う、…うん……?」



通常以上に大きな声で聞かれて思わず私までビックリしてるとお千ちゃんはさらにカウンターに身を乗り出して私の目の前にその大きな瞳を近付ける。



「薄桜学園って…、千鶴ちゃん…、雪村千鶴ちゃんって女の子いなかった?」

「ぇ…、千鶴ちゃん…?知ってるの?お友達?」

「じゃ、じゃあ、風間は?風間千景!」

「え…、えっと…、急に言われても…。」



そんな名前言われても〜とたじろぐ私にお千ちゃんはなんだか必死の形相。コワイ。



「風間よ、風間!あ〜んな目立つバカ、知らないはずないわよ!ほら、金髪でやたらキンキラした学ラン着てるバカ」



そこまで聞いてピンときた。



「あっ!あーー、あーーー」



人差し指を立てて口を大きくまぁるく開けて何度も頷く。
いたいた!あのものすごく高圧的なキンキラキンだ!



「やっぱり…。千鶴ちゃん大丈夫かしら…」

「…?千鶴ちゃん、どうかしたの?」

「どうかしてなきゃいいんだけど…」

「???」



お千ちゃんが一体千鶴ちゃんの何をそんなに心配してるのか全然わからなかったけど、そこにはそこの事情があるんだなと思って、あえて踏み入るのはやめておこっと思った。
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