僕のおねえさん

□67.
1ページ/3ページ

☆★男たちの会話★☆QLOOKアクセス解析






お昼ご飯を食べ終わった僕は、いつものように食後の会話を楽しむみんなの声を背中に聞きながら屋上の柵に寄り掛かり校庭を見下ろしていた。

視線の先には生徒客が完全に引いてテラス席に一人ふたりと座って寛ぐ学校関係者以外のお客さんがいるくらいの長閑な空気の漂う名前ちゃんのお店がある。

名前ちゃんの姿はここからじゃ全然見えないけれど…、きっと今頃あのワゴンの中で島田さんと交代でお昼ご飯を食べているんじゃないかな…。

一日で一番忙しい時間を乗り切った名前ちゃんがホッと一息つく様子を想像する。

同時に思い浮かべるのはあのキラキラと輝くような無邪気な笑顔…。

土方さんの言葉で強くなれた…って言ってた。

僕の知らないところで土方さんは確実に名前ちゃんの信頼を築いていってるんだ。
あんなに土方さんの事を怯えていたのにあそこまで打ち解けられるなんて…、

あの目付きが悪くて口も悪い、下手したらそこらのチンピラよりも柄の悪い土方さんが、何をどうしてどんな手を使って名前ちゃんの信頼を得たんだろうと、どこを見るでもなくボーーっとしていたら視界の隅に人影が動いたのが目についた。



「………?」



ジッと目を細めてみると人影はサッと体育館裏へと姿を消した。

………、




「んァ?総司?どうかしたのかぁ?」



寄りかかっていた体を起こして屋上の出入り口に向かう僕に平助君が振り返って声を掛ける。



「ごめん、僕ちょっと行くとこあるから」



バタンと重い扉が閉まる寸前、「なんだぁ〜?総司のヤツ…」と平助君のいつも通りの間延びした声が聞こえた。



屋上からの階段を一階へ急ぎ足で降りる。
その間思うことはさっき見た人影の事。
先週の金曜日に見たあの体育館裏の光景が鮮明に蘇る。
土方さんが話す姿に目を向ける名前ちゃんの笑顔。その笑顔で土方さんの手を引いてあの場所で会うとか…。

今日も会う約束をしたのかな…。

でもさっき屋上から一瞬見えた人影は土方さんじゃなかったような気がする…。

考え事をしながら最後の階段を下りて廊下へと角を曲がろうとした時、出会い頭に向こうから歩いてきた人にぶつかるところだった。



「ぅおっ!?とぉ〜…、あっぶねぇ〜。ビビったぁ〜」

「……す、すみません」



いつもの僕なら『ちょっと、気をつけなよね』とか言って高圧的な態度をしてしまう場面なのに、その人がどう見ても生徒でも先生でもない人だったからとりあえずだけど謝っておいた。

すると、その人は「ま、気をつけろよ〜」と陽気に鼻歌を歌いながら軽いノリでそのまま校舎の外へと向かって歩いて行ってしまった。



「…………。」



誰だったんだろうとは思ったけれど、今はそれどころじゃないとニコニコ挨拶をしてくれる井上さんの購買部を横切って武道場と体育館に続く渡り通路へと急いだ。




息を潜めて先週平助君と千鶴ちゃんが覗き見してた同じ場所で体育館の壁に背を預けて肩越しにそっと覗き見る。

そこに見えたのはやっぱり土方さんじゃなかった。
土方さんよりも少し大きな背中に赤味がかった髪…。

原田先生が向こうを向いて立っていた。

その先に名前ちゃんがいるの?
名前ちゃん、まさかとは思うけど、
…………、



ほんとにまさかとは思うけど、
土方さん以外とも二人っきりで会ったりとかしてないよね…。

そんなこと名前ちゃんがするわけないってわかってるのに、あのキラキラとした笑顔を原田先生にも向けたりしてるんじゃないかとあり得ない不安のようなものが渦を巻く。

ごくっと喉が鳴る。
もう一度視線を体育館裏へと向けて原田先生の背中の向こうを覗き込むと、その先には名前ちゃんじゃない、黒いスーツの足が伸びてるのが見えた。




………、土方さん。


原田先生の先にはこの前と同じように体育館の脇に腰掛ける土方さんがいた。
だけどこの前と違うのは、その向こう側には名前ちゃんはいなくて、土方さんが醸し出す雰囲気もまるで違うということ。

いや、むしろ、違うのは先週の土方さんの方か…。
今の土方さんの纏う空気の方がよっぽど普段どうりかと思うけれど…。

だけどいつもの土方さんの空気感とは少し違うかも…。
なんだろう、殺気さえ感じる…。
横に原田先生が立ってるのにまるで無視するかのように見向きもしないでタバコを吹かし続ける横顔に疑問を感じる…。

大人気もなくケンカでもしたのかと思うけど、そうだとしたら本当に大人気ないよね。

ジッと様子を見ているとちっとも動きを見せない土方さんに原田先生が何かを言おうとしたのか僅かに動きを見せた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ