僕のおねえさん

□65.
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☆★総ちゃんには誤魔化せない★☆QLOOKアクセス解析








「名前ちゃん、昨日のパンケーキ、まだある?」



五月の爽やかな日曜日。
洗濯物を干していたらリビングから総ちゃんの声が聞こえてきた。



「え?あ、総ちゃん、もう起きて来て平気なの?」



手に持っていた洗濯物を干して窓からリビングの奥へと覗き込むとキッチンの向こう側で冷蔵庫から牛乳を取り出してコップに注いでいる総ちゃんがニコッと笑顔を向ける。



「うん、もう平気。いっぱい寝たし。これ以上寝たら逆に体が痛くなりそう」



一気にコップの中身を飲み干してもう一度注ぐ。



「ふふ、よかった。でもまたぶり返すかもしれないし、体力もまだ本調子じゃないんだから油断しちゃダメだよ?起きててもいいけどゆっくりしててね?」



残りの洗濯物に手を伸ばしながら言うと、「はぁい」と流すような返事をされる。
もう、テキトーに聞き流して…。なんて思いながらも、にこにこ穏やかに笑っていてくれる総ちゃんに戻ってくれて本当に良かったと思う。
総ちゃんと仲直りできて、本当に良かった。



「ね、パンケーキ」



最後の洗濯物を干し終わって空っぽになったカゴを手にリビングに戻ると、私が干し終わるのを待っていたのか、ソファーに座った総ちゃんは「お腹すいた」とまるで小さい子のように言う。



「えー?冷蔵庫に入ってたでしょ?さっき牛乳出した時あったでしょー?」

「うん、あったけど?」

「じゃー温めて食べればいいじゃない」



持っていたカゴを足元に置いて冷蔵庫を開けながらパンケーキのありかを覗き込む。昨日作ったままのパンケーキは何枚にも重ねてラップしてあって、一目でわかる状態。
冷蔵庫から取り出してカウンターに置いて視線を上げるとソファーから振り向いてこっちを見てニヤニヤ顏の総ちゃんと目が合う。



「名前ちゃんがやってくれると思ったから」



にっこり。


ソファーの背中に腕を置いて頬杖をつきながらそんな風に微笑まれたら必然的にやらざるを得ないというか…。



「も…、もぉー、仕方ないなぁ」



総ちゃんって小悪魔だよね!とか言いながら「何枚食べるの?」と聞いてレンジでチンしてあげる私は総ちゃんに甘いと思う。
だけど、こんなやりとりが心地よくて自然でいられる関係だと思うから、これでいいんだ。
もう総ちゃんにあんな冷たい目をさせてしまわないように、ありのままの私でいよう。
家族にさみしい思いをさせてしまうくらいなら無理なおつきあいはしない。
やっぱりまっすぐ家に帰るのが私には一番あってるんだってわかった。


チン!と軽快な音と共に甘い匂いがそこから漂う。



「いい匂い。生クリームたくさんつけてね」



嬉しそうな声で催促する総ちゃんに「はいはいただいま、王子様!」って悪態つきながら自信作の生クリームとビタミンたっぷりのフルーツを添えた。



ソファーに二人並んで一緒にパンケーキを食べる。昨日焼いた分を半分こ。総ちゃんは余裕でペロリと平らげて、まだ物欲しそうに私の手元を横目でニヤニヤと眺めている。



「生クリーム、もうないの?」

「え?」

「生クリーム、すごく美味しかったなぁ〜」



一枚につきどんだけ盛るんだ!?というくらいの量を乗せていたのにまだ欲しがるとか。



「もうないよ、てか総ちゃん食べ過ぎなんじゃ…」



ジッと私の手元にニコニコと視線を向ける総ちゃんに負けそう…。



「……よかったら…、」

「え!いいの!?うわぁ〜、ありがとう!」



大袈裟なほど白々しくもお礼を言ってさっと私の手からお皿を奪うとパクッと一口で食べてしまった。



「総ちゃん…、すごい食欲だね…」

「ん?あぁ、だって美味しかったから」



ごくごくっと牛乳も飲み干してニコッと首を傾げて笑う総ちゃんに、ちょっと心配になるけど、まぁ元気で食べれるようになったのならいいかとため息をつく。



「やっぱり名前ちゃんと一緒だからかな」

「え?」

「なんでもない」



「はい」と言ってきれいになんにもなくなったお皿を私に手渡すとソファーにもたれてリモコンをテレビに向けて電源をつける。
テレビ画面には今話題の女性芸人たちが温泉やグルメのレポートをしている様子が映し出された。



「俳句の本、ちゃんと返した?」

「え?」



不意になんでもないようにサラッと言われた言葉。
驚いて総ちゃんの顔を見たけど総ちゃんはテレビの画面に顔を向けたまま。
そのままの状態でさらに話し続ける。



「こないだの本、土方さんのだったんでしょ?いつの間に仲良くなってたの?」



リモコンをローテーブルに置くとそのまま前屈みの姿勢で膝に肘をついて頬杖をつきながらこっちを振り向く総ちゃんは、真意の読めないようなほほ笑みを湛えて私を見上げる。



「え?……」

「僕、見ちゃったんだよね、名前ちゃんと土方さんが体育館の裏で楽しそうに本読んで笑ってたところ」

「っ!?」

「名前ちゃん、前に近藤さんちで土方さんに会った時は『傷を見られたかもしれない』って言ってどう接すればいいか分からない感じだったのに…。何かあったの?」



総ちゃんの視線は依然として感情の読めない色で、だけど真っ直ぐ、私の心の奥まで見透かすような独特の鋭さを持ったもので、誤魔化したってきっとすぐに見抜かれてしまうんじゃないかというくらい、病み上がりなんて思えない位の強さを秘めていた。
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