僕のおねえさん

□64.
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☆★総ちゃんと私★☆QLOOKアクセス解析





総ちゃんの事を思いながら、他のことは一切考えずに無心に生クリームを泡立てる。
あったかいパンケーキに添えてもすぐに溶けないくらい硬くしっかりとしたクリームに仕上げるために。
たくさん食べてもらいたいから甘さはチョットだけ、一緒に買ってきたフルーツにも合うようにあっさりしたクリームにしよう。

総ちゃんに「おいしい」って言ってもらいたい。おいしそうに食べてくれる総ちゃんの顔を思い浮かべて、徐々に硬く重く泡立ってくるクリームに集中していると不思議なことに、いつの間にか二日酔いの気だるさはスッカリなくなっていた。

満足のいく硬さに仕上がったクリームを冷やしてパンケーキもたくさん綺麗な色に焼き上げた頃にはすっかり時間が経っていて気が付けばもうお昼前。もうすぐ新喜劇の始まる時間だった。


総ちゃん…、まだ寝てるのかな?
二階からは何の音もなく、本当にそこにいるのかわからないくらい静かで起きている気配は感じられない。



………、出掛けてる…、わけじゃないよね。

買い物から帰って来た時も総ちゃんの靴はちゃんと下駄箱に入ってたし。


…………、


お節介かもしれないけれど、ちょっと様子を見に行ってみようかな。
キッチンの片付けを簡単に済ませてしんと静まる二階へと上がって行った。



階段を上って総ちゃんの部屋の扉の前に立つ。
一瞬、昨日の総ちゃんのあの冷たい眼差しが脳裏を過ぎって扉をノックする手が固まるくらい躊躇ったけど、ごくっと息を飲んで深呼吸をするように一度体内の空気を入れ替える。



「総ちゃん」



ノックをして呼びかけてみる。
だけど部屋の向こうからは返事は返ってこないばかりか何も音も聞こえない。本当にいるのかな?と思う位の静寂が続く。



「総ちゃん?」



もう一度ノックをしながら呼びかけてみたけれどやっぱり返事はない。

なんで?靴もちゃんとあったのに…。いないの…?もしかしたら、私が同じ家にいるのが嫌で、夜、私の知らないうちに出て行っちゃったとか…?
自分が不甲斐ないばかりに総ちゃんの居場所を奪ってしまったのではないかと心の呵責が渦を巻き胸の奥がグッと詰まる思いでいると、ふと扉の向こうから微かに何かが動く気配を感じた。



「っ…!……そ、…総ちゃん……?」



そっと、ゆっくりドアノブに手をかけて扉を開けて中を覗いてみると、レースの薄いカーテン越しに射し込む陽射しの中で、太陽の光に明るく透ける総ちゃんの髪の毛がベッドの布団から少しだけ覗いているのが見えた。


総ちゃんが眠ってる。


ただそれだけの事実が本当に嬉しくて、大きく胸を撫で下ろしてホッとため息をつくと、寝返りを打つのか、ゆっくりと微かに掛け布団がゴソっと動く。



「……ぅ、ん………」



小さな声が聞こえて、起きるのかなと思って扉の隙間から見ているけれど、寝返りを打つ様子もなく、それ以上の動きをする様子はない。


あれ…、まだ起きないのかな…。
そう思った時、布団の中からくぐもった重い咳が聞こえた。



「っ…!そ、総ちゃん?」



そのあまりにも重い、するのも辛そうな咳の音に驚いて思わずベッドの横に駆け寄って床に膝をついて総ちゃんの顔を覗き込むように枕元に顔を寄せると、おでこまでかけていた布団からゆっくりと総ちゃんの眼差しが私を見上げる。



「……、………」



寝起きだから、というわけじゃないその焦点の定かじゃない瞳にハッとする。



「総ちゃん…、熱?」



潤んだ瞳の周りは赤らんでいて見るからに高熱でうなされている状態。
サッと総ちゃんの額に掌を乗せると思わず手を引いてしまうほどの熱さにびっくりする。



「総ちゃん!ひどい熱!大丈夫?」



もう一度額に掌を乗せて額にかかる前髪をよけるように頭の方へ滑らせると、いつもの総ちゃんらしからぬ髪の毛の手触りに息を飲む。



「総ちゃん…、もしかして、昨日、髪の毛乾かさずに…」



私がそこまで呟くと総ちゃんは瞼を閉じて私の手を鬱陶しそうにして向こう側へ寝返りを打とうとするけれど、熱のせいで体のあちこちが痛むのか、表情を歪めて寝返りすら打てないほどだった。



「………総ちゃん………、」



総ちゃん……、きっと私のせいだよね。私のことがムカついて怒ってそのまま寝ちゃったんだよね。



「総ちゃんごめんね」



自分のせいで総ちゃんに苦しい思いをさせてしまった。
ちゃんと髪の毛乾かさなきゃダメじゃない、とか、こんなところに濡れたままのタオル置いてたらカビ生えちゃうよ、とか、そんな口うるさいことなんて言えるわけもなく、ただ「ごめんね」って、
その一言しか今の私には言える言葉はなかった。
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